エルダー2021年1月号
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2021.114できたことがなかなかできない」、「疲れやすい」、「イライラする」、「周囲に負担をかけている」、「大事な仕事を任せてもらえない」などさまざまな問題や葛藤が生じてきます。復職後もメンタル的に落ち込むことを想定しておく必要があります。メンタルヘルスのスクリーニングやサポートも大事です。がんの治療成績だけを気にする時代ではなくなっています。職場でもこれからがんの治療をしながら仕事を続ける人が増えてきます。技術を持った方、ベテランの方には長く勤めてもらいたいものと思います。それぞれの職場に合った「両立支援制度」をつくっていき、従業員にも治療をしながら仕事を続けられることを周知していく時期になっていると思われます。また、一度制度をつくってしまうと変更するのがむずかしくなります。がん患者は生じる臓器や進行度により症状、治療経過が異なりますので、休暇期間や作業内容については柔軟に対応できる制度にしておくことが望まれます。東京労災病院(以下、当院)では、復職後も最低半年から1年間は両立支援コーディネーターがサポートを続けています。自分と職場だけでうまく仕事を調整できるという方がいる一方、仕事は可能なのに職場がなかなか認めてくれない、あるいは仕事の負担が大きく疲労とストレスが増えていると相談される方がいます。転職を希望される方もいますが、がんの治療という大きなライフイベントに向き合う時期は、慣れた環境、作業内容、人間関係で仕事を続けられるほうが悩みごとを増やさずにすむと思われます。6東京労災病院における両立支援当院では就業中の患者に対し、疾患に関係なく支援希望をうかがい「治療と仕事の両立支援」の介入をしています。がん患者に対しては労働者健康安全機構の両立支援モデル事業の中核病院であったため、早い時期から支援していました。当院でがん患者へ支援した事例の内訳では50代・60代男性の大腸がん、40代・50代女性の乳がんが多くみられました。また、がん患者支援者全体の復職率は78・3%でした。当院には両立支援コーディネーターが8人おり充実していますが、ほとんどの医療機関ではメディカルソーシャルワーカーや看護師が兼任しているものと思われます。「治療と仕事の両立支援」は職場の状況や家庭環境そのものに関与するため、退院支援や転院調整以上に本人や家族とかかわることになります。また、当院では2010年から毎年、「がんの治療と就労両立支援」市民公開講座を開催しています。11回目となる2020(令和2)年は「医療機関と企業との連携」をテーマとしました。両立支援の医療機関、企業への周知とお互いの連携が患者(労働者)のためには必要です。コロナ禍のなかで7コロナ禍の不況で減給や解雇の不安が急速に現実的となっていることを医療現場でも実感しています。公的な支援に頼らざるを得ない方も増えています。生活様式も大きく変化し、仕事に関してもリモートワークの導入や直接人と会うことが減り、移動や会食も少なくなりました。さらに、働き方改革による就労時間の短縮やハラスメント対策の徹底など、数年前の働き方とは大きく変わっており、柔軟に適応していく必要があります。そして2人に1人ががんになる時代、がんの治療をしながら発症前の6〜7割の仕事しかこなせなくなったとしても、周りの人がサポートする体制が望まれます。病気は、いつだれに起きるかわかりません。「がんの治療と仕事の両立支援」は、健康経営※5の大事なテーマとも思われます。がんの治療をしながら仕事を続けられることがあたり前の社会になることが望まれます。※5 健康経営……従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること(「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です)

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