エルダー2021年1月号
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2021.118出血」、「くも膜下出血」に分けられますが、原因はどうあれ脳のどの部位がどれだけ損傷したかによって症状は変わってきます。診断書上は同じ脳梗塞という病名でも、人によって症状は異なるのです。したがって、病名だけでなく、本人が何に困っているのか、リハビリテーションスタッフの見解はどうかなど、総合的な情報収集が配慮を考えるうえで有効となります。後遺症の種類にもよりますが、例えば運動障害が残る場合などは、ラッシュ時の通勤を避けるための時差出勤制度が使えるのかどうか、職場内の階段や段差の状況はバリアフリーに対応できる状況かどうか、職場内の動線はどうか、トイレは障害者でも使えるタイプかなどを確認しておくべきでしょう。感覚障害が残る場合には火傷やケガへの注意だけでなく、温度や湿度といった室内環境も体調に影響する場合があります。めまいやふらつきが残る場合、高所作業などはむずかしいかも知れません。半側無視や失認※3・失行※4といった高次脳機能障害が残る場合には作業そのものが困難なこともあるでしょう。一方で「この作業に気をつければできる」とか「注意をうながせばできる」といった対処法がある場合もあります。ぜひとも両立支援コーディネーターを介してさまざまな専門職のアドバイスを聞いてみてください。大切な従業員が病気になっても職場に戻って来ることができる、これは職場全体のモチベーションにも繋つながることと思います。ある製造技術者の方は、病気になるまでは「自分の技術は見て盗め」と後輩の指導にはあまり熱心でなかったといいます。しかし、病気になって復職できたとき、元通りのパフォーマンスは出せないけれど、自分の会得した技術やコツを若いスタッフに伝授するようになったそうです。「自分の得てきたものを残したい」、「迎えてくれた会社にも恩返しをしたい」、そこにはそう思える自分がいたそうです。職場の雰囲気がよくなったことはいうまでもありません。両立支援と働き方改革4わが国の脳卒中後の復職率は40〜50%前後といわれてきました。働き方改革の影響もあるかも知れませんが、両立支援コーディネーターの介入を始めてから脳卒中後の復職率は70%以上にまで向上しています。しかし、復職後にすぐ離職してしまうのではなく、定着できることこそ意味があります。われわれは復職から1年間フォローしており、3カ月以内に離職した人が10%いましたが、6カ月以上勤務している人は83%で、うち1年以上継続して勤務している人が65%でした。それでは両立支援コーディネーターは魔法使いのような存在なのでしょうか。そもそも就労年齢の脳卒中患者の50%はほぼ元通りに、日常生活が自立するまでに回復する人を含めると約70%に達するといわれています。つまり、私は両立支援コーディネーターが介入することで、受入側の理解が得られ、働き方の見直しができたことから本来働けるレベルの方が復職できたのだろうと考えています。しかし、どうしても元の職場に戻れないケースもあります。その場合、職業リハビリテーション分野では、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業センターなどの施設があり、職業訓練などの就労支援を受けて新規就労を目ざす方法もありますし、障害者手帳が交付された場合には障害者枠での雇用という選択もあります。雇用契約が終了した場合、職場にそこまでの面倒をみる義務はないかも知れませんが、大切な仲間にそういった方法もあるということ、またハローワークや両立支援コーディネーターが相談にのることができるということをお伝えいただければと思います。男性も女性も若年者も高齢者も障害者も、すべての人がともに生活できることが「あたり前」である社会を目ざすこと、それこそがわが国の目ざす共生社会なのです。※3 失認……目や耳など感覚器官に異常はないにもかかわらず、対象物を認知できないこと※4 失行……手や足など運動器の異常はないにもかかわらず、動作を行う機能が低下すること

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