エルダー2021年1月号
22/68

2021.120業制度、③休暇制度を利用しやすい社内風土の醸成、があげられています。糖尿病の治療を中断させないためには、定期通院に対する配慮が極めて重要で、特に「時間単位の年次有給休暇」や「傷病休暇・病気休暇」といった休暇制度は有用と考えられます。それぞれむずかしい点があると思われますが、まず時間単位休暇の制度などから取り組んでいただければと考えます。糖尿病のある労働者への安全配慮と継続的な治療のために、場合によっては就業上の措置や職場環境の整備・改善が必要となります。就労糖尿病患者が働きやすい職場づくりのためには、上司や同僚に正しい知識を理解してもらう必要があり、産業保健スタッフによる研修、広報、情報提供も重要です。このような健康経営的な活動は就労糖尿病患者の働く意欲を高め、ひいては労働生産性の向上につながり、企業においても人材の募集時や貴重な人材の喪失を防ぐなど大きなメリットとなるのではないでしょうか。そもそも「糖尿病」とは?3WHO(世界保健機関)により、糖尿病は「インスリン分泌不全やインスリン抵抗性による、インスリンの作用不足により慢性的な高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されています。インスリン作用とは、インスリンが体の組織で代謝調節機能を発揮することをいいます。適切なインスリンの供給と組織の必要度のバランスがとれていれば、血糖を含む代謝全体が正常に保たれますが、インスリン分泌不足、またはインスリン抵抗性増大はインスリン作用不足をきたすため、血糖値は上昇します。糖尿病には、大まかにいって自己免疫異常によりインスリン分泌不足となる1型糖尿病と、遺伝的因子や、過食・運動不足・肥満・ストレスなどの環境因子および加齢が原因の2型糖尿病があります。糖尿病の症状と合併症4口こう渇かつ、多飲、多尿、全身倦怠感、体重減少、空腹感、疲れやすさなどの症状が生じます。1型糖尿病などで急性の代謝失調状態となると意識混濁、昏睡のほか、死のリスクまであります。また長年の高血糖状態が続くと慢性合併症が併発し、その症状も出現します。合併症には、急性のものと慢性のものがあります。急性合併症には低血糖症、異常な高血糖による昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖性昏睡)などがあり、慢性合併症には視力障害や失明、腎不全での血液透析導入、糖尿病性神経障害や足壊え疽そによる下肢切断などがあります。また心筋梗塞、脳梗塞など動脈硬化症の発症リスクが2〜3倍程度増加します。糖尿病の治療5食事療法と運動療法は、糖尿病治療の基本となります。それでも高血糖が改善されない場合は薬物療法を追加します。病態に応じて選択され、多くで併用療法も行われますが、患者の勤務に配慮した薬物選択も重要となります。内服薬と注射薬があり、インスリン自己注射療法では、患者の状態に合わせ1日に1〜4回の自己注射を行います。血糖を下げる効果は非常に高く有用ですが、食事と運動量とのバランスが崩れると、低血糖や高血糖のリスクが生じます。一般に高齢患者さんほど低血糖リスクの低い薬剤が選択されます。就労上、糖尿病患者で特に注意を要する低血糖6薬物療法を行っている糖尿病患者にとって、たいへん大きな問題が薬剤性低血糖です。主にインスリン製剤の自己注射療法やスルホニル尿素薬など、インスリン分泌刺激系の内服薬を使

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る