エルダー2021年1月号
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特集高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」エルダー231加齢による器質的・心理的変化ここでは、加齢による脳の変化や心理的変化、気をつけるべき精神疾患とその両立支援について述べさせていただきます。脳の重量は20代にピークを迎え、40代から減少をはじめ、60代以降には脳重量の減少速度はさらに増加するといわれており、100歳になると健常者でもピーク時の約20%減少するといわれています。しかし、脳の変化は、必ずしも認知症と結びつくわけではありません。正常の老化では、知能は全般的に低下すると考えられます。ただし、一律に低下するわけではありません。例えば、「流動性知能」と呼ばれる情報を処理するスピードなどは、中年期以降高齢になるにともない低下してきます。一方、「結晶性知能」と呼ばれる、知識、語ご彙い力、一般常識など(「〇〇の作者はだれか」、「税金を払わなくてはいけないのはどうしてか」など)は一定程度維持されるようです。高齢の熟練者が、専門分野で高いパフォーマンスを発揮することは企業側でも実感できていると思います。高齢者は、経験で積み上げてきた「結晶性知能」で、「流動性知能」の低下を補ってパフォーマンスを発揮していると考えられます。「記憶」は、加齢によりもっとも大きく変化するといわれています。未来に行うべきこと(「今日傘を持っていこう」など)を適切に思い出す「展望記憶」、体験した事柄は覚えているけれど、それがいつどこでだれから教わったかという「出典記憶」、過去に体験した事柄の順番を覚えておく「時間順序記憶」などは、老化によって影響を受けやすいといわれています。また、高齢者は抽象的な題材に関してはスピードが保たれ、類推する能力には、長けており、論理的に考えていくよりも「印象」、「直感」によって判断することが多くなってくると考えられます。総合的な能力としての知能の変化は、複数の要因が複雑に関係し合って起こっているため、一面だけを取り出して判断するのは避けた方がよいでしょう。高齢者のメンタルに影響を与える要素2■高齢者とのコミュニケーション高齢者には、理詰めで説明するよりも、エピソードをまじえてイメージが湧くような話し方が理解されやすく、効果的であると考えられます。高齢者のコミュニケーションは、話題の寄り独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院 治療就労両立支援センター 柴岡三み智ち解 説4メンタルヘルス不調者の両立支援さまざまな変化がストレス要因になる高齢者〝いつもと違う〞を見つけたら周囲から声がけを

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