エルダー2021年1月号
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2021.124道・脱線が増えてきます。本人は「言葉がのどまで出かかっているのに出てこない」などという形で体験されます。こういう場合には、周囲は話をせかすことなく、話がそれた場合に穏やかに軌道修正し、ゆっくり話を聞きましょう。こちらから話しかける場合には、いいたいことの要点をしぼり、ゆっくり話すようにしましょう。また、次々と違う話題について話しかけないようにしましょう。一方、「高齢者だから」聞こえづらいだろう、認知機能が低下しているだろうと決めつけて、画一的な対応をすることもコミュニケーションのギャップにつながりますので、相手の状況をよく把握するようにしましょう。■ライフイベント高齢者は多くの喪失体験を経験するといわれています。よくないライフイベントとは、家族や友人など重大な他者(ペットを含む)との死別、役割や収入の変化、自分や家族が健康を害することなどです。家族が健康を害することで、介護の必要が出てくるかもしれません。よいイベントとしては、孫など家族が増える、仕事での昇進などです。歳を重ねるにつれ、高齢者にはよくないライフイベント体験が相対的に増え、それが生活環境の変化を引き起こし、心理的なストレスになることが懸念されます。■身体機能の変化加齢にともない、聴力や視力などの感覚器の機能も低下してきます。高齢者では一般的に、低音よりも高音性の難聴がみられるといわれています。何度も聞き返すことを遠慮してコミュニケーションを取らなくなってしまったり、周りが話していることが聞き取りづらいと自分が悪くいわれているかもしれないと思ってしまったりすることが懸念されます。業務上の指示は、読みやすい大きさの字で書面にし、口頭で説明を加えることが望ましいと考えられます。高齢者の精神疾患とは3精神疾患は通常、社会的、職業的、またはほかの重要な活動における著しい苦痛または機能低下と関連するといわれています。嫌なことがあると一時的に気分が落ち込んだり、眠れなくなったり、不安になったり、やる気を失ったりすることは、だれしも経験があることだと思います。しかし、その落ち込みや不眠、不安、意欲の低下などが、普段よりも強く何日も継続し、社会生活に影響が及んだ場合は精神疾患が疑われます。精神疾患発症の原因の一つとして、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)のバランスが悪くなることがあげられています。生まれつきの体質の「生物学的な要因」だけで決まるわけではなく、他人に褒められたときに嬉しいと感じるか、または裏があるのではと否定的に感じるかといった物事のとらえ方の特徴である「心理的要因」、また人間関係の問題や環境の変化といった「社会環境の要因」が複雑に絡んで発症するといわれています。精神疾患の外来患者数は年々増加傾向にあります(図表1)。だれでもかかる可能性があり、治療すると回復する病気です。身体疾患と同様に、早期発見と早期治療が予後を良好にするために重要です。高齢者で注意すべき精神疾患は、「認知症」、「うつ病」などです。脳血管障害などの身体疾患に合併するものも増加してきます。複数の疾患を合併することで、内服可能な薬が制限されることもあります。認知症は、一度正常に達した認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をさします。感情や意欲、性格に変化をもたらすこともあります。2014(平成26)年『日本における認知症の高齢者人口の将来設計に関する研究』(厚生労働科学研究補助金厚生労働科学特別研究事業)によると、2012年は認

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