エルダー2021年1月号
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特集高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」エルダー27企業事例看護の世界からタクシー会社経営へ社長自ら従業員の健康増進に取り組む神奈川県藤沢市を地盤とする藤沢タクシー株式会社は、1940(昭和15)年に設立。お客さまから選ばれるタクシー会社を目ざし、創業以来80年にわたり、地域の発展とともにその歴史を刻んできた。社員数は70人で、平均年齢は63歳である。定年年齢は60歳で、その後は嘱託社員として1年ごとの有期契約で再雇用する。再雇用年齢の上限はなく、旅客輸送の安全が確保できるかを気力と体力の両面から総合判断して契約更新の可否を判断する。現在、社員の60%を60歳以上が占め、最高齢者は77歳。高齢の社員が多いのは、そもそも入社時の年齢が高いという業界特性によるところが大きい。また、人の出入りが激しいタクシー業界にあって、同社は比較的定着率がよく、20年以上勤める人も少なくないことから、平均年齢が全国のタクシー乗務員の平均(60歳)を上回っている。2001(平成13)年に同社の社長に就任した根岸茂も登と美み代表取締役社長は、看護学博士でもあり、臨床の看護師や看護学校の教員として活躍していた異色の経歴を持つ。タクシー会社の経営とはかけ離れた仕事だが、意外にも、その知識や経験がいまも活かされている。「父が体調を崩し、急遽、家業を継ぐことになりました。継いだからには看護の道は諦あきらめるしかないと覚悟を決め、経営の世界に飛び込みました。ところが、ふたを開けてみると、社員の健康診断の結果がひどい状態なんです。当時の産業医には、『再検査の指示をしても来ないし、薬を出しても途中で勝手にやめたりする。産業医として責任が持てない』とまでいわれました。お客さまの命をあずかる仕事ですから、健康面をきちんとしないとたいへんなことになります。看護の道を諦めるどころか、本腰を入れて取り組まなければと思いました」と根岸社長は語る。看護の専門知識や経験に加え自身の罹患経験を活かして社員の高齢化、高喫煙率、有所見率の上昇といった課題があるなかで健康増進に取り組み、根岸社長が会社を継いだ2年後、初めて両立支援の必要が生じた。「当時は両立支援という言葉もあまりピンときませんでしたので、あえて両立支援をしようとか、あるいは両立支援とはどういうものか調べるというより、『仕事を続けたい』という社員の気持ちに応えるため、『ど制度よりも本人との対話を重視しがん治療と仕事との両立を手厚く支援藤沢タクシー株式会社(神奈川県藤沢市)

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