エルダー2021年1月号
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2021.128うしたらいいだろうね』と本人と話をしながら、仕事の中身を見直したり、夜間の勤務を少なくしたり、治療を優先して一定期間仕事をお休みにしたりと、その時々に応じた支援を行ってきました」と根岸社長はふり返る。目の前にいる社員を支えるため、自然に、あたり前のこととして取組みをスタートさせたのである。以来、がんと診断されて仕事と治療を両立した社員は18人に上り、そのうち7人はいまも在職している。年齢は60代が最も多く、次いで50代、70代と続く。性別は、もともと男性の多い職種だが、がんの罹患者も男性が圧倒的。がんのステージや治療法はさまざまである。がんに罹患した社員を支援していくうえでは、根岸社長が看護の専門家であることに加え、自身ががんを経験した「がんサバイバー」であり、がん患者の気持ちや実際の悩みを理解していることも役立っている。根岸社長は、看護学校の教員をしていたときに罹患し、サバイバー歴は26年になる。「少し大げさにいうと、がんの宣告を受けるというのは、自分の今後の生き方を考える契機になります。おかげさまで主治医にも恵まれ、周りにいた看護職も温かくサポートしてくれて、仕事を継続することができました。ですから、社員にも、本人に働き続けたい気持ちがあるならば、できるかぎりのサポートをしていきたいと考えています」一人ひとりと向き合い一人ひとりに最適な支援を行う長きにわたってがん治療と仕事との両立支援に取り組んできた同社だが、他社と比べて両立支援の制度が充実しているというわけではない。「一般的な休職制度などはありますが、両立支援のためのしっかりした制度はないんです。いまも働きながら治療を続けている従業員が7人いますが、一人ひとり経過も違うし、治療方法も、抗がん剤の副作用の出方も違う。本当にケースバイケースなのです。ですから、あまり制度に縛られず、問題が出てきたら、『じゃあ、どう対応しようか』と個別に話し合って進めていく形をとっています。そこが大企業と違うところです。中小企業では目の前に社員がいて、『病院でがんだといわれた』といった話が直接耳に入ってきます。そこで規則にあてはめて対応しようとするのではなく、『どういう治療をするの?』、『いつからスタートするの?』、『主治医は何ていっているの?』、『仕事はどうしたい?』とその場でどんどん話を進めていくことができる。それが中小企業のよさだと思います」本人に合わせた多彩なサポートを実践以前より業績が向上した人も具体的な事例を二つ紹介しよう。1人目は20年以上勤務していたベテラン社員で、症状が出たのは69歳のとき。根岸社長とは普段から信頼関係を築いていたので、初めて下血したときは、真っ先に社長に「どうしよう」と電話がきたそうだ。検査の結果、S状結腸のステージⅣとわかり、肝臓にも転移が見つかった。手術後、化学療法が始まったが、最後まで働くといい続けた。それに対して社長は「わかった。ずっと働いてほしい」と答え、サポートを続けた。働いていくなかでは、薬の副作用で脱毛があったり、指先がしびれたり、皮膚がただれたり、声が枯れたりした。そのたびに、本人が「こうなっちゃったんだけど、どうしよう?」根岸茂登美代表取締役社長

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