エルダー2021年1月号
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2021.130と、根岸社長は話す。今後の課題として、マニュアルの作成や家族への支援を検討今後の課題の一つは、自社独自の両立支援マニュアルの作成である。「マニュアルに縛られるつもりはありませんが、『なんだか知らないけど、社長がまた一人でやっているよ』ということではなく、周りのスタッフを巻き込んで両立支援を進めていく必要があります。また、それを一つの機会として社員のリテラシーを向上していくためにも、当社の環境でどのように両立支援ができるかを示した独自のガイドラインをつくろうと、安全衛生委員会で検討を始めたところです」罹患した社員の家族への支援も課題である。両立支援というのは本人だけの問題ではない。治療と仕事を両立するうえでは、それを支える家族にもさまざまな葛藤がある。社員が亡くなった場合の遺族への支援(グリーフケア)も必要ととらえている。また、講演会などに登壇する機会も多い根岸社長は、今後も両立によるメリットを社会に伝えていく考えだ。「両立支援はお金がかかるし、会社にとってマイナス」と考えている人たちに、「パフォーマンスが下がらない事例もある。『キャンサーギフト』といってがんを経験したことで得られるものもある」と理解をうながしていく。他社を含む中小企業全体の課題としては、①外部資源の活用、②専門職の配置、③企業と医療機関の連携、④事業者を支える―の4点をあげる。中小企業は専門スタッフがいないので、外部資源をうまく使う必要がある。そのためには情報収集が欠かせない。また、根岸社長は、「中小企業こそ、専門職の配置を検討すべきです」と説く。大きな企業ほど産業保健スタッフが充実しているが、専門職がいるといないとでは大きな違いである。事業者が社員に長く勤めてもらいたいと思っていても、専門知識がないために、社員ががんになったとき、「残念だけど、仕事どころじゃないだろう」と思ってしまいかねない。どこに気をつければ働き続けられるかを知るには、専門職の判断が必要となる。医療機関と連携をとることも必要だ。いまはそこの敷居が高いと根岸社長はいう。これらに加え、国や自治体には、事業者への支援を期待している。「両立支援を行うには、勇気や覚悟がいる場面があります。『自分がやっていることは正しいのだろうか』と不安になることもあります。経済的なことも含め、そういう事業者に対する支援があると、自信をもって取り組むことができます」と、根岸社長。中小企業が両立支援を行ううえでは自社の強みを活かすことが大事すでに述べたように、根岸社長は看護の専門知識を持ち、サバイバーとしてがん患者の悩みや不安も熟知している。また、タクシー運転手は各人が単独で働くので、休んでもほかの人に迷惑をかけることがなく、柔軟な働き方を実現しやすい。さらに、一人ひとりに直接的に働きかけ、柔軟な対応をとることができるという中小企業ならではのよさもある。これらは同社の強みだが、「どの会社にも、自社の強みがあるはずです」と根岸社長はいう。そして、「社員が働き続けてくれると、事業者もモチベーションが上がります。私は、社員が『辞めたい』といってくるとものすごく落ち込みます。それが病気のためだと、本当にショックです。年を取っても働ける会社、病気になっても働ける会社にしていくことは、事業者のモチベーション向上にもつながりますので、前向きに取り組んでいただければと思います」と、エールを送る。同社を特別な例ととらえず、自社に合うやり方を検討し、両立支援の取組みを進化させていっていただきたい。

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