エルダー2021年1月号
45/68

処分の程度の決め方2懲戒処分の根拠となる就業規則に基づき取りうる選択肢を整理することになります。一般的には、けん責・戒告、減給、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などを定めている企業が多く、これら以外には、昇給停止、職務停止(自宅謹慎)などを定めている場合もあります。懲戒処分については、労働契約法第15条で、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となると定めています。処分の程度が重たくなるほど、処分理由について、合理性が厳格に求められるほか、相当性を満たすこともむずかしくなります。まずは、処分の重たさを検討のうえ、処分の程度を選択していくことになります。当然ながら、懲戒解雇がもっとも重い処分となりますが、職務停止などは給与の支給も止まることをふまえると、解雇に次ぐ程度に重く、その期間が長くなればなるほど解雇に近づくほどに重たいものとして評価されることになるといえるでしょう。したがって、一般的には重たい順から、懲戒解雇、諭旨解雇、職務停止、降格、昇給停止、減給、けん責・戒告といった考え方になるでしょう。そして、ハラスメントの内容、頻度、被害者の数、被害者からの処罰感情などを考慮したうえで、処分を決定していくことになります。処分の相当性が争点となった裁判例について3過去の裁判例において、類似の状況で地方自治体の懲戒処分の相当性が争点となった事件があります(最高裁平成30年11月6日判決)。勤務時間中に訪れた店舗において、女性従業員に対してわいせつな行為などを行ったことを理由に、6カ月の停職処分を行ったところ、その処分の取消しを求めて訴訟が提起されました。第一審および控訴審においては、処分が不相当に厳しいものとされた結果、取消請求が認められています。その際には、被害者と顔見知りであったこと、終始笑顔での対応がされており、渋々ながらも同意していたと認められること、当該店舗のオーナーおよび被害者が処罰を望んでいないこと、常習性があったとは認められないこと、過去の処分歴がないことなどが理由とされていました。これに対して、最高裁は、第一審および控訴審の結論を維持せず、6カ月の停職処分を有効と判断しています。まず、店員が笑顔で対応し特段の抵抗を示さなかったとしても、それは客と店員の関係であり、トラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、これを加害者にとって有利に考慮するべきではないと判断されています。また、処罰を望んでいない点についても、事情聴取の負担や店舗の営業への悪影響などを懸念したことによるものとして、重視しない姿勢を示しています。被害者の態度や感情については、過去にも、「被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊ちゅう躇ちょしたりすることが少なくないと考えられる」と判断し、加害者に有利に斟しん酌しゃくすることを否定した判例(最高裁平成27年2月26日判決)がありますので、同様の考え方が維持されているといえるかと思われます。特殊な事情としては、自治体による会見や報道が行われており、公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたものというべきであり、社会に与えた影響が小さくないものとされている点は、通常の企業において生じる事案とは異なる点といえるかと思われます。停職処分は免職(解雇類似)処分に次ぐ重いものであることをふまえてもなお、厳格な処分を有効と判断しており、自治体であることや報道がなされたことなど特殊な事情はありますが、処分の程度について参考になる事件であると思われます。エルダー43知っておきたい労働法AA&&Q

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る