エルダー2021年1月号
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懲戒処分の公表について1懲戒処分は、企業秩序の維持や回復のために行われる側面があります。企業内において、ハラスメントが行われたことが噂になっている場合に、処分結果を公表しないままでいると、結局お咎とがめなしだったのかなど、企業秩序が回復できないままになるおそれがあります。したがって、公表することにより、企業秩序の維持または回復に努めるほか、公表自体が再発防止に資することもあります。就業規則に、「懲戒処分の際、被懲戒者の所属部署、役職、事案の概要、懲戒処分の対象となった行為及び懲戒処分の内容等について、社内に公表する場合がある」など公表に関して定めている企業もあります。法律上も、公表自体を明確に禁止する規定はなく、一律で、公表自体を行ってはならないというルールにはなっていません。しかしながら、直接的に公表を禁止する法律がないといっても、日本における名誉棄損は、たとえ、真実を公表した場合であっても成立しうるものとされていますので、名誉棄損に該当してしまうと違法と判断されるおそれがあります。したがって、名誉棄損に該当しないように留意する必要があり、再発防止に資する要素は残しつつも、例えば、氏名などについては秘ひ匿とくするなど、名誉棄損に該当しないような運用は必要といえるでしょう。また、ハラスメント事案においては、被害者もいるため、懲戒事由を公表することで被害者のプライバシーへの配慮が不足しないよう配慮する必要があります。懲戒処分の公表と名誉棄損について2懲戒処分を受けるということは、基本的には不名誉なことであり、公表することによって、懲戒処分の対象者の社会的評価を下げることにつながるといえます。名誉棄損に関して、民法第723条は、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」と定め、被害者による名誉棄損の加害者に対する損害賠償請求権と名誉回復措置請求権を認めています。日本の名誉棄損の解釈では、たとえ、真実を公開した場合であっても、それが対象者の社会的評価を下げる以上は、原則として違法とされています。違法と判断されてしまうと、損害賠償および名誉回復の責任(例えば、日刊新聞紙への謝罪広告の掲載やホームページ上への謝罪文の掲載などの方法が採用されています)を負担することとされています。懲戒処分の結果を公開するか否かについては、原則として、企業の裁量に委ねられていると考えられます。懲戒処分を公開するにあたっては、懲戒対象者の名誉棄損などに該当する可能性などもふまえたうえで判断する必要があります。特定されやすい事案であれば、再発防止に関しては、懲戒処分の公表以外によることも検討するべきです。A2021.144懲戒処分とその公表について留意点があれば教えてほしい社内において生じたパワーハラスメントについて調査したところ、ハラスメント行為が存在し、懲戒処分を行うことが相当であるとの結論に至りました。類似の事案が生じないように再発防止策として懲戒の理由と対象者を公表する予定ですが、何か問題があるでしょうか。Q2

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