エルダー2021年1月号
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2021.146加齢にともなう脳の変化前回は、「老い」に対する偏見や思い込みが、記憶成績の低下やストレスの増加につながるため、仕事のやる気やパフォーマンスを高めるうえで、老いに対して適切な知識を持つことが大切であることをお話ししました。今回は、多くの人が加齢により機能が低下すると考えている「記憶」を取り上げ、高齢期の特徴について解説します。私たちが生まれてからこれまでに経験した出来事、獲得した知識、身につけたスキル、日常生活での習慣といったさまざまな情報はすべて脳に蓄えられています。生まれたときには400g程度だった私たちの脳は、20歳くらいで1200〜1400gと3倍になり成長のピークを迎えます。脳には千億個の神経細胞があるといわれていますが、脳のシワがある表面の大脳皮質にかぎっても、20歳以降は1日に約8万5千個、1秒に約一つの脳神経細胞が失われ、90歳のときにはピーク時に比べ10%ほどの脳神経細胞が減少します。このような脳の変化が起きるため、加齢にともなう記憶機能の低下は個人差はありますが避けることはできません。しかし興味深いのは、脳全体が均等に加齢の影響を受けるわけではないということです。図表の脳のイラストは、加齢の影響を受けやすい場所(色のついている箇所)を表しています。情報の入力や検索に関連する前頭前野、記憶の定着をになう海馬において脳の変化が顕著にみられますが、それ以外の箇所は高齢になっても比較的保たれます。そのため、記憶機能全般が低下し、これまでに獲得したすべての情報が失われるわけではないのです。※1  Buckner, R. L. (2004). Memory and executive function in aging and AD: multiple factors that cause decline and reserve factors that compensate. Neuron, 44(1), 195-208.加齢出典:Buckner(2004)※1より抜粋、一部改変図表  脳の加齢変化前頭前野海馬 高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、〝こころ〞に焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。心理学高齢社員の―加齢で〝こころ〞はどう変わるのか―増本 康平神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 加齢にともない衰える記憶と維持される記憶第2回

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