エルダー2021年1月号
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2021.156FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫大根は台所の千両役者餅を食べたら大根おろし古くは大根のことを「鏡かがみ草ぐさ」とも呼びました。鏡は餅のことであり、餅の消化を助けるために、生大根が添えられるところからきています。お正月は餅を食べる機会が多く、食卓の上には大根のなますや大根おろしが必ず用意されていたものです。生大根は、いってみれば天然の胃腸薬みたいなもので、多彩な消化酵素が豊富に含まれています。餅やごはんの消化を助けるデンプン分解酵素のアミラーゼをはじめ、タンパク質分解酵素のプロテアーゼ、脂肪分解酵素のリパーゼなどです。お正月は、ごちそうが次々と出され、満腹になってもさらに食べてしまうことが少なくありません。そのようなときに助けてくれたのが大根おろしであり、千切り大根のなますだったのです。大根ほど役に立つ食材も少ないでしょう。米不足で、米の代用食としていた時代もありました。細切りの大根を米の5倍ほど入れて炊いた水っぽいごはんで、食べてもすぐに空腹になるので困りました。免疫力を高めるイソチオシアネート「生でよし、すってまたよし、煮てもよし。干して、漬けても、これまたよしよし」といわれるように、昔から大根は台所の千両役者でした。大根は万能なのです。アミラーゼなどの消化酵素と並んで注目されるのは、イソチオシアネートという大根に含まれている辛味成分。生の大根をすりおろしたり、細かく刻んだりして細胞がこわれ、空気と触れたときに発生する成分です。イソチオシアネートには卓越した殺菌作用と抗酸化作用、つまり、体細胞を酸化させて弱らせる活性酸素を消去する力があります。アンチエイジング効果で、がんや血栓の形成などを予防し、ウイルスに対して免疫力を強化する働きがあるともいわれています。イソチオシアネートを発生させる酵素は、大根の皮や先端部分に多く含まれており、この成分を高めるためには、皮つきのままですりおろすとよいでしょう。この成分も消化酵素も時間をおくと効果を失ってしまいますので、生で早く食べることが大切です。327

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