エルダー2021年1月号
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エルダー7特集高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」わが国の高齢労働者を取り巻く現状わが国の総人口は2019(令和元)年10月1日現在、1億2617万人で、65歳以上人口は、3589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28・4%となっています※1。高齢者は増加していますが、健康寿命も徐々に延伸し、ひと昔前と比較して明らかに元気な高齢者が増えてきています※2。15歳から64歳の労働生産人口が減少し、元気な高齢者が増えてくるということは、職場内にも高齢労働者がふつうにみられる社会になることを意味します。年齢を重ねると自然と持病を持っている割合も増えてきます。65歳以上の高齢者の受療率※3は、男女を問わず、入院、外来ともにがん、心疾患、脳血管疾患が上位に位置づけられています(図表)。65歳〜69歳男性の入院総数は10万人あたり1618人に対し、75歳以上は10万人あたり4036人と倍以上の人数となっています。高齢労働者は病気という視点でみると脆ぜい弱じゃく性を有している可能性が高いといえます。しかしながら、その人にしかできない特別な技術を有している、粘り強く仕事を続けることができるといった強みもあるといわれています。高齢者の増加以外にも、治療技術の進歩から大病をした後の労働機能の低下があまりみられない患者が増加したことなどから、治療と仕事を両立したいと思う患者が増えてきている現状があります。治療と仕事の両立支援を行う仕組みを構築・運用するうえでのポイント治療と仕事の両立支援の最大の特徴は、「労働者からの申し出」を受けて配慮の内容を決めていくということです。つまり、①事業場と連携し勤務情報を収集し、②医療職(産業医・産業看護職など)に渡し、③主治医に医学的に必要な配慮の記載された意見書を作成してもらい、④事業者に配慮をお願いする、という一連の過程を労働者が自ら主体となって実施することが必要になります。左記に、労働者からの申し出を受ける際に注意すべき点を列挙します。1両立支援を行う目的を考えましょう両立支援を行う目的が、事業者によっては事業場のリスク回避のために安全側に極端に寄っているため、事業者と労働者の意見が合わず対立構造になることがあります。両立支援はもともと超高齢社会に備えて、一億総活躍のかけ声のもと、働くことの困難性を感じている労働者が広く社会参画するための制度です。したがっ※1 内閣府『令和2年版高齢社会白書』※2 内閣府『令和元年版高齢社会白書』※3 受療率……ある特定の日に、すべての医療施設に入院あるいは通院、または往診を受けた推計患者数と人口10万人との比率高齢社員のための治療と仕事の両立支援産業医科大学 両立支援科 診療科長 立石清一郎総 論

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