エルダー2021年2月号
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特集高年齢者雇用安定法が改正 ー70歳までの就業機会確保に向けてーエルダー13そこで本稿では、各企業が雇用延長およびシニア活用を適切なタイミングで行うために必要な、「現状分析」を起点とした各種のプロセスについて解説します。「人員分析」、「賃金・人件費分析」、「シニアの環境分析」の手法あらためて、深いレベルの現状分析結果をベースに議論を進めることで、自社におけるシニア活用の「必要度合い(どの程度積極的に活用していくべきか)」を明確に見出すことができるはずです。そうすれば、シニア活用の手段としての「雇用延長の必然性(いますぐに実施すべきなのか、将来に向けた準備を整える段階なのかなど)」についても、自ずと方向性が統一されていくものと考えます。さて、具体的な現状分析については、次の手順で進めていただくことを提案します。(1)人員分析人員分析の手法とは、簡単にいえば、中長期的での組織人員構成(年齢分布)を予測する過程で、シニア活用の方向性を検討することです。将来的にシニア層のボリュームがどう変化するか、そのことにより組織でどんな問題が起こりうるのかを推察するなかで、課題抽出を行います。例えば、一般的に多いといわれる企業の人員構成として、「30代半ばから後半の層が少なく、40代半ばから50代前半の層が多い」、という類型があげられます。筆者はこの類型(中間層の凹み)を「中抜け型組織」と定義しています。中抜け型組織は、現状だけ見ればベテラン層が厚く安定的な組織構成であるという評価もできますが、本質的には5年、10年先に形成される大量のシニア層をどう処遇していくか、ということが重要な課題になります。この点、中間層が少ないことをふまえて、将来的なシニア層の役割を「現役の継続」と設定するか、逆に「役割の縮小・変更=権限委譲、後進育成の強化」ととらえ直すかによって、雇用延長のスタンスも変わってくるものと考えます。前者の場合、中間層の育成が間に合わない可能性が高く、その分シニア層の意欲を維持しながら現役期間を延長するためには、早期に定年延長を行うという手段も十分候補に入ってきます。後者の場合、シニア層には早い段階から役割変更に対する意識改革を行ってもらう必要があるため、現役続行を前提とした定年延長を急ぐよりは、継続雇用制度の枠内で働き方・処遇の見直しを行うという選択にも説得力が出ます。このように、組織の人員構成に関する現状と将来に対する分析をふまえたうえで、雇用延長の方針と具体的な人事制度の設計に反映させていくことが、企業の実態に即したシニア活用を行うための、一つ目の重要なポイントになります。(2)賃金・人件費分析「賃金・人件費分析」の基本的な考え方としては、組織全体の高年齢化にともなう総額人件費の上昇を抑制しつつ、シニア層の個別賃金の最適化を図るために、統計データあるいは内部調査(シニア層へのヒアリング)を活用しながら課題を正しく認識し、目標設定を行うことにあります。①まず、総額人件費の分析について、前述の人員分析とセットで行うことをおすすめします。具体的には、5年、10年先の人員構成予測に合わせて、一定の条件下における総額人件費の増減をシミュレーションします。②次に、個別賃金について、「賃金水準に対する自社のシニア層の納得感」、「賃金水準の対外的な競争力・魅力度」という二つの視点から検証と目標設定を行ってください。例えば多くの企業において、60歳定年後の継続雇用時の賃金水準は定年前より下がることが一般的ですが、今後定年延長も視野に入れてシ

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