エルダー2021年2月号
17/68

特集高年齢者雇用安定法が改正 ー70歳までの就業機会確保に向けてーエルダー15を定年延長後も活用する類型を「連続型」、異なる人事制度を適用する類型を「非連続型」と定義しています。特に、シニア層の役割を「現役続行」ととらえ、定年前の人事制度をそのまま連続していく場合には、大半の企業で総額人件費の上昇をともなう可能性がありますし、そのなかにおいて、さらなる高齢化にともなう健康面や身体機能の低下などのリスクを抱えることにもなります。このように、継続雇用制度の場合と比べ、検討すべき事項は増える傾向にあることを念頭に置き、計画的な準備を行っていくことが求められます。適切な法対応の進め方〜同一労働同一賃金、無期転換ルール〜最後に、雇用延長にともなう人事制度設計において解決すべき二つの法対応上の問題点について、基本的な解説を行います。(1)同一労働同一賃金先述の通り、企業が一般的に採用している継続雇用制度の体系は有期雇用かつ、定年前と同一労働であるにもかかわらず賃金水準を大幅に下げていることから、同一労働同一賃金の観点で問題になりえます。この点を各社とも強く認識すべきです。もっとも、国が提示する「同一労働同一賃金ガイドライン」や、2018(平成30)年6月1日の「長澤運輸事件最高裁判決」※で提示された判例の枠組みのなかにおいて、定年後の継続雇用者としての性質から、一定の賃金減額は「不合理な労働条件の相違」ではないと判断されている(労働契約法第20条の定める「その他の事情」として考慮される)点についても十分理解をしておく必要があります。今後、企業に求められる対応方針としては、ハードルは高いものの、シニア層の「職務ないし役割」に応じて賃金設計を行い、「同一労働同一賃金」を厳密に運用していくことが望ましいといえます。あるいは定年延長を行う(無期雇用を延長する)ことも選択肢になるでしょう。(2)無期転換ルールいわゆる「無期転換ルール(有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約〈無期労働契約〉に転換できるルール)」に関連して、60歳以上の継続雇用者(有期雇用)が継続雇用後に5年を経過した場合、本人から希望があれば再度無期雇用に転換をしなければいけないのか(経営上のリスクではないか)、という質問がよくなされます。この点については、あまり知られていませんが、有期雇用特別措置法の定める、「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例(第二種計画認定・変更申請)」という制度を利用することにより、無期転換申込権が発生しません。ただし、同法の特例の適用を受けるためには、本社・本店を管轄する都道府県労働局に対して計画書を作成し、認定申請を行う必要があることに留意してください。そのほかに、自社で再雇用する場合だけではなく、高齢法に規定する「特殊関係事業主(いわゆるグループ会社)」に定年後継続雇用される場合も対象に含まれることと、逆にそれ以外のケースでは特例の対象とならない(例えば60歳以上で、有期雇用で新規に採用した社員については、通常の無期転換ルールが採用される)ことにも注意が必要です。※ 長澤運輸事件…… 定年後再雇用された嘱託社員の待遇格差について争われた裁判。詳細は『エルダー』2018年8月号「知っておきたい労働法Q&A」(家永勲)をご参照くださいもりなか・けんすけ 株式会社新経営サービス人事戦略研究所マネージングコンサルタント。中堅・中小企業への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に活躍。各社ごとの実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。著書に、『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規)、『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社)、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版)、『社内評価の強化書』(三笠書房) などがある。

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る