エルダー2021年2月号
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特集高年齢者雇用安定法が改正 ー70歳までの就業機会確保に向けてーエルダー21定年年齢はこれまでと同じ60歳だが、定年後再雇用の上限年齢を5歳引き上げ、希望者全員を70歳まで雇用することにした。65歳以上の社員を「シニアマイスター」と位置づけ、経験と能力を活かしてもらうとともに、社員の生活の安定を図る。「マイスター制度」は60〜65歳が対象。従来の定年後再雇用制度は、再雇用後の年収が一律に定年時年収の6〜7割となるうえ、その後は評価制度の適用がなく、本人の努力が報酬に反映されない仕組みだった。この点を見直し、就労意欲の向上につなげていくことにした。具体的には、当該社員を「マイスター」と呼び、再雇用時に等級の再格づけを行うとともに、評価に基づく報酬体系に改める(図表)。経営トップの決断により他社に先駆けて70歳までの雇用を実現同社が今回、再雇用年齢の上限を70歳に引き上げることにしたのは、2019年の春に、経営トップから指示があったことがきっかけだ。背景には、やはり、高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正がある。2021年4月から、事業主に対して、70歳までの就業確保措置を講じるよう努力義務が課されたことが契機となり、改正法の施行に合わせて再雇用の上限年齢を引き上げることにした。人財総務部の菅原英明部長は当時の経緯について、「当社は、社員が安心して仕事に専念できる環境を整え、長く働いてもらう方針です。今回の改正法では、70歳までの就業機会を『努力義務』としていますが、いずれは義務化の方向に進むと考え、再雇用期間を最長65歳から70歳に延長することを決断しました」と説明する。また、同社は高い専門性を必要とする仕事が多く、知識と経験を身につけたベテランに長く働いてもらうことは、会社にとっても大きなメリットだ。「製品の開発や研究を行う際は、いろいろなデータを計測する必要があります。当社が扱っているのはその計測機器です。そうした計測機器はマーケットが大きくないため、大きなメーカーはあまり扱っていません。欧米を中心に、それぞれの専門の用途に応じた計測器をつくる小さなメーカーが数多くあり、100社以上の代理店になっています。これらのメーカーは、大学の研究室などが立ち上げた会社も多く、高い専門性を持っています。当社から、各メーカーに技術者を派遣してトレーニングを受けさせ、専門的な知識を蓄えることを続けてきました。そうした技術・ノウハウを持つ人は、一朝一夕に育てることはできません」(菅原部長)制度設計にあたっては、人事だけでなく、経理、総務などを含めた部署横断のプロジェクトを組んで検討を行った。実は同社では、これまでも、「もうしばらくこの人に働いてもらいたい」という人については、65歳以降も雇用するケースがあったという。技術系や法務などの専門的な職種では、代わりの人財を確保することが容易ではないためだ。その経験があったので、70歳まで雇用することについて不安視する声はなかった。プロジェクト内で検討が必要だったのは、同図表 二つの制度の概要(2021年4月導入予定)制度名対象年齢概 要シニアマイスター制度65~70歳● 定年後再雇用の上限年齢を65歳から引き上げ、全社員を70歳まで雇用● 65歳以上の社員を「シニアマイスター」と位置づけ、経験と能力を活かしてもらうとともに社員の生活の安定を図る● 仕事の内容は、それまで担当していた仕事だけにかぎらず、幅広く考えていく方針マイスター制度60~65歳● 従来の定年後再雇用制度を見直し、評価に基づく報酬体系に改める● 再雇用時に等級の再格づけを行い、再雇用後は等級に応じた報酬を支給● 目標達成度を基本とする評価を行い、賞与に反映● 当該社員を「マイスター」と呼び、就労意欲向上を目ざす

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