エルダー2021年2月号
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特集高年齢者雇用安定法が改正 ー70歳までの就業機会確保に向けてーエルダー23ただし、仕事の内容や労働時間は会社が提示することになる。65歳まではフルタイム勤務でそれまでの仕事を継続するのが基本だが、65歳以降は、人によってさまざまな働き方・仕事をしてもらう予定だ。取材時点では具体的な仕事の内容は未定だというが、それまで担当していた仕事にかぎらず幅を広げ、例えば、受付や設備点検などこれまで外注していた仕事を担当してもらうことも検討している。勤務時間も、65歳以降は必ずしもフルタイム勤務とはかぎらず、週2〜3日の勤務であったり、非常勤のような形態もあり得る。そうした多様な働き方は、会社側の都合だけでなく、健康面や家族の事情などのためフルタイムで働くことがむずかしい場合も少なくない高齢者のニーズにも合っている。また、2020年はコロナ禍の影響で、同社でも在宅勤務が浸透し、通勤の負担が減るなど高齢社員にとっても働きやすくなったという。なお、シニアマイスターには、等級の格づけや評価は行わない。年金を満額受給する前提で報酬水準を設定する予定である。新制度は社員に好評運用しながら必要な改善を行っていく同社には労働組合はないため、各制度の内容は社員代表に説明し、全社員に周知した。社員側からすると、70歳までの就業の機会が得られるとともに、60〜65歳の処遇も基本的に上がる(再雇用時に著しく低い評価がなされるようなことがなければ、収入は下がることはない)ので、喜ぶ声が多いという。実際に新制度がスタートするのは今年4月からだが、これまで以上に意欲を持って働く人が増えていくことが期待できる。定年が近い人や再雇用者はもちろん、若手や中堅社員にとっても、社員を大事にする会社の姿勢を感じ、より安心感をもって働けるようになるだろう。今後は、まずは新制度を運用しながら、制度の定着・改善に取り組んでいく予定だ。「現実に進めてみると、合わない部分が出てくるかもしれません。実際にやりながら、適宜変更していくことも必要だと思います」(菅原部長)ととらえている。「努力義務」であるいまだからこそ70歳までの就業機会確保に取り組もう高齢法の改正もあり、「65歳以降の就業機会の確保に取り組みたい」と考えている企業は少なくないだろう。ただ、そう思ってはいても、なかなかふみ切れない会社も多いのではないだろうか。しかし菅原部長は、「いままでの当社のありようは、世間一般とほぼ同じでした。今回の法改正では、70歳までの就業機会確保は『努力義務』とされていますが、将来、『努力』が外れて義務化されたら、どの会社も取り組まざるを得ないわけです。それを考えたら、そのときになって急に取り組み始めるより、いまのうちから少しずつ始めて、試行錯誤しながら進められたほうが、高齢社員の働き方にもマッチする、よりよい制度ができるのではないでしょうか」という。取材時点では、同社の新制度もまだスタート前だが、菅原部長は、「高齢社員には健康の問題が出てくるかもしれません。また、いまは新型コロナウイルス感染症の影響でストップしていますが、海外出張も行っています。そうした業務を行って問題ないかなど、運用しながら確認し、改善をしていく必要があります」と話している。「まだ努力義務だから」といって何もしないでいると、いざ70歳までの就業機会の確保が必要となったときに慌てることにもなりかねない。「努力義務」であるいまのうちに取組みを進め、必要な改善を加えながら、よりよい形を目ざす同社の姿勢は、他社の取組みにも大いに参考になるだろう。

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