エルダー2021年2月号
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2021.244記憶に頼る方法では物忘れは防げない「人の名前を忘れる」、「ものを置いた場所を忘れる」、「漢字が思い出せない」、高齢者の多くが訴える日常生活の物忘れです。しかし、これらは高齢者だけの問題なのでしょうか? 大学生に高齢者の記憶愁訴※1のリストを見せ、そのリストにある物忘れをこの1週間で経験した人に手を挙げさせると、上の写真のように約9割の学生が手を挙げます。記憶力がもっとも高い20歳前後の大学生でさえ、日々の生活のなかで頻繁に物忘れをするのですから、記憶に頼って覚えようと努力するだけでは物忘れを防ぐことはできません。ではどうすればよいのでしょうか? 逆説的ですが、覚えなければ忘れることもありません。そのため物忘れやし忘れを防ぐもっともよい方法は、「覚えていなくても、思い出せなくても対処できるように工夫すること」です。認知機能の役割が変わってきている歳をとると身体機能が衰えるので、若いときのように速く歩いたり、走ったりすることができなくなります。そして、身体機能の衰えは、公共交通機関がなかった昔なら、移動の制限に直結していました。しかし、交通機関が発展した現代では、身体機能が衰えた高齢者でも新幹線や飛行機を使うことで、東京から大阪、日本からアメリカといった長距離を、身体能力をはるかに超えた速さで、若年者と同じスピードで移動することができます。認知機能はどうでしょうか。覚えられる量、記憶の正確性、情報を処理するスピードは若いときと比べて低下します。一方で、そのような機能低下を補ってくれる道具はたくさんあります。例えば、予定を忘れないように手帳を使用している人は多いでしょう。私たちが行った研※1  記憶愁訴…自分の記憶力の低下について自覚すること約9割の学生が、高齢者と同じような物忘れを経験している心理学高齢社員の―加齢で〝こころ〞はどう変わるのか―増本 康平神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授  高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。今回は、高齢者と新しいスキルの習得の関係について解説します(編集部)。ミスを防ぎ、新しいスキルを身につけるには第3回

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