エルダー2021年2月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー45究でも、日常生活の物忘れは、記憶検査の得点で説明できず、手帳やメモを使用しているかどうかで説明できるという結果が示されています。現在はインターネットも普及し、だれでも大量の情報にアクセスできるようになっただけでなく、スマートフォンやタブレットの登場で、外出先でもそれらの情報にアクセスすることが可能になりました。その結果、人の記憶をはるかに超えた桁違いの量の情報をいつでも扱うことができるようになったのです。このような道具を使いこなすことは、認知機能の衰えをカバーするだけでなく、若年者と同じ情報量を扱うことを可能とするため、高齢となっても社会で活躍するうえで、強力な武器になります。一方で、そのような道具に頼っていたら、認知機能がどんどん低下していくと心配される方がいらっしゃいます。しかし「道具に頼ると認知機能を使用しない」というのは誤解です。まず、道具を使用するには、その使用方法を覚える必要があります。また、インターネットやパソコン、タブレットが普及するまでは、私たちは情報そのものを記憶する必要がありました。現在は、情報そのものではなく、大事な情報をパソコンのどこに保存したか、どのサイトに行けば必要な情報が手に入るか、どのサイトの情報が信頼に足るのか、などを覚える必要があります。このように私たちの頭で処理すべき情報は、この20年で急速に変わってきているのです。新しいことを身につけるにはどうすればよいのか道具の使い方のようなスキルの獲得は、脳のなかでも加齢の影響を受けにくい大脳基底核という領域が関連しています。そのため、若いときよりも時間はかかりますが、歳をとってからでも新しいスキルを獲得することができます。一方で、便利な道具があることがわかっていても、その使い方をわざわざ覚える気にならないこともあります。スキルの獲得を妨げるのは「歳だから無理」という偏見による、新しいスキルや知識を身につけることに対する意欲の低下です。図表は縦軸に記憶成績を、横軸に覚え方を表しています。「書いて覚える」、「読んで覚える」、「意味で覚える」の順に記憶成績が高まっていますが、最も記憶成績が高いのは「自己と関連づけて覚えた」場合です。脳は自分に関係がないと認識した情報を蓄えようとはしません。自分と関係づける最も効率的で労力を必要としない方法は、覚えたい対象に興味や関心を持つことです。人は自分にとって大切だと認識した情報や興味がある情報は、そうでない情報よりもずっと楽に覚えることができます。そうはいっても、高齢になると新しい知識やスキルの獲得に苦労することも事実です。スキルの獲得には、すでに獲得しているスキルと関連するスキルの方が身につけやすい、という特徴があります。そのため、雇用側からすると高齢社員に与える仕事内容を考える際は、その社員がこれまでに獲得したスキルと関連させることも重要です。社員側からすれば将来的にどのような仕事をするかを見据えて、スキルを積み上げていく必要があります。そして興味があり情熱を傾けられる仕事であるほど、効率的に知識やスキルは蓄積していきます。※2  Rogers, T. B., Kuiper, N. A., & Kirker, W. S.(1977). Self-reference and the encoding of personal information. Journal of personality and social psychology, 35(9), 677-688.【参考文献】 増本康平(2018)『老いと記憶〜加齢で得るもの、失うもの』中央公論新社00.050.10.150.20.250.3書く読む意味自己記憶成績覚え方出典:Rogers et al., (1977)※2を元に筆者作成図表  自分と関係する情報は記憶されやすい

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