エルダー2021年2月号
52/68

2021.250と企業が望むなら、高齢社員は働きに見合った処遇を望むでしょう。表彰企業では定年前と同じ活躍を求める場合も増えていますから、高齢期も働きぶりや成果を評価し、その結果を処遇に反映する企業が増えたのだと思います。及川 「前と同じようにがんばってほしいけど、給料は下がります」では、高齢社員にかぎらず、だれでもやる気がなくなりますね。内田 少なくとも営利企業であるため、企業としては社員に貢献してもらわないと困ります。ですから評価し、貢献に応じて処遇することが大事になります。上地 図表1を見ると、高齢社員に教育訓練をする「能力開発」の割合も高くなっています。内田 これは、いままで通りプレイヤーとしてがんばってもらうために、継続的に技能は磨いてもらいますよ、という考えが背景にあるわけです。作業現場でも機械化が進んでいます。新しい機械を使いこなせないと、仕事にならないという状況もあるでしょう。過去との比較から―多様化と制度化―及川 内田先生には、長くコンテストにたずさわっていただいています。企業の取組みで、以前と変わったこと、変わらないことがあれば、教えてください。内田 高齢者雇用の取組み分野と解決の考え方は、昔と大きく変わりません。例えば、「作業施設等の改善」を例にしましょう。重いものを軽くするとか、作業しやすいように台の位置を調整するといった、高齢社員の作業負担を軽減し、保有能力の発揮を阻害する要因を取り除こうとする考え方は変わりません。解決方法は、20年前から頻繁に紹介されていました。上地 たしかに、過去の事例でもよく紹介されていましたね。内田 ただし、ある産業で着目された取組みが、時間を経てほかの産業でも取り入れられています。例えば、一体感を醸成する目的で社内報をつくる取組みです。これは、昔はビルメンテナンス業で紹介されていました。最近では、社会福祉法人で頻繁に紹介されています。成功事例が産業の壁を越えて波及しています。及川 では、以前と比べて、何が変わったのでしょうか。内田 一つは、選択肢の多様化でしょう。企業が個人の状況に合わせて、きめ細かなサービスを提供していることです。原因は、対象の年齢層が上がったことです。10〜20年前に、企業が想定していた高齢社員は60歳前後でした。及川 いまは65歳以上も対象ですね。しかし、年齢層が変わるとなぜ選択肢を多様化させるのでしょう。内田 60歳前後と65歳以上では年齢が若干変わるだけだと思うかもしれません。しかし、身体的機能の低下や環境の個人差は大きくなります。加齢にともない、身体的な機能は徐々に低下しますよね。60歳前後は、その身体的な機能の低下に個人差が出始める初期です。上地 初期だとまだ個人差は少なそうですね。内田 65歳以上になると、身体的機能の個人差も、本人を取り巻く状況の個人差も大きくなります。そのため、多くの高齢社員のニーズを満たすために個々の状況にあった支援メニューを提供するようになっています。 もう一つの変化は、制度化です。昔は、働きやすい環境を整える場合も、経営者や管理職の内田賢氏(東京学芸大学 教育学部 教授)

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る