エルダー2021年2月号
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2021.24エッセイスト 岸本裕紀子さんまで東京の本社で勤務してきたが、定年後は実家のある北海道に帰って暮らしたいという人が応募するかもしれません。いまはインターネットを活用すれば全国各地の支店で募集し、アクセスすることもできますし、シニア向けの再雇用型社内公募制度があってもよいのではないかと思います。―2021(令和3)年4月より、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となります。シニアの働き方は今後どのように変化していくと思われますか。岸本 同じ会社で定年まで働き続ける人が今後は少なくなるのではないかと想像しています。いまの40歳ぐらいの人は、転職を2〜3回しているのがあたり前のような感じで、最初から一つの会社でずっと働いている人が少なくなっています。そうなると新卒で入社し、定年を迎える同期が少なくなるだけではなく、入社の時期もバラバラ、退職の時期もバラバラになっていくのではないでしょうか。現在、企業は毎年何十人、何百人の同期の60歳をどうしようかと悩んでいますが、もしかしたら自分に合った仕事があれば58歳で辞めるかもしれないし、あるいは再雇用の途中で辞める人もいるかもしれません。この年齢はちょうど老親の介護の時期と重なることもあり、介護と仕事の両立のために別の仕事に就くとか、あるいはさまざまな仕事や働き方にチャレンジできるチャンスがあれば、自分の意思でやってみたいと思う人も出てくるでしょう。 以前は55歳を過ぎると仕事がないといわれましたが、いまはそんなことはありません。定年まで同じ会社で働くという意識が薄れてくると、同じ会社に65歳までいるから70歳まで雇いなさいといっても、実態は政府が思い描いているようにはならないかもしれません。―同じ会社で働き続けるだけではなく、仕事の選択肢も増え、働き方も多様になってくるということですね。最後に充実したシニアライフを送るためのアドバイスをお願いします。岸本 これは楽しそう、おもしろそうだと思ったらとにかくやってみることです。そして、誘われたら断らないこと。友人からの旅の誘いなど、おつきあいはなるべく断らずに、仕事だけではなく、趣味も含めて自分が興味を持つことにチャレンジし、数多くの引き出しを持つことです。年を重ねると突然できなくなることがどうしても出てきます。本の取材を通じて、女性は「幕の内弁当」だなとつくづく感じました。食べ歩きも好きだし、おしゃれも好きです。どんなに忙しくても、好きなことや趣味は捨てない。さらに子育てや家事もメインでやって、仕事もやるという幕の内弁当的なイメージです。それだけあるとたとえ仕事が一つなくなっても気持ち的にはそれほどダメージがなくてすみます。男性が気の毒なのは企業戦士といわれ、すべてを犠牲にして仕事一途にがんばってきたのに、仕事がなくなるとどうしてよいのかわからなくなってしまう人がいることです。そうならないために、興味があることや好きなことを貪欲にやってみるとよいのでは、と思います。おもしろそうだと思ったらやってみて〝引き出し〞を多く持つことが重要(聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)

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