エルダー2021年3月号
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特集高齢社員戦力化に向けた活用戦略と賃金・評価制度を考えるエルダー11定しても、定年を契機にして、賃金が下がることがほとんどとなります。同じ分野の仕事をしても、定年を契機に職責が落ちれば仕事の重要度が落ちますから、賃金が下がることになるわけです。しかし、人間はそんなに合理的ではありませんので、「賃金が下がったことにはやっぱり不満だ」という思いが、どうしても高齢社員には残ってしまいがちです。その思いが強いと、高齢社員のモチベーションに影響を及ぼしますので、対応策を考えておくことも大事です。企業はまず、高齢社員に対して戦力化するための合理的な人事管理について一生懸命説明し、高齢社員の納得を得ることが重要になります。それでもなお高齢社員に不満が残るなら、今度は高齢社員自身に変わってもらうことが求められます。再雇用は、定年を契機にした雇用契約の再締結ですから、一種の社内中途採用といえます。例えば、中途採用試験を受けて働こうとするとき、「私はこういう能力を持っていて、こういうことで会社に貢献します」とアピールするでしょう。つまり、高齢社員も、どのような役割を通して会社や職場に貢献するか、きちんと考えることが求められます。会社が仕事を用意してくれるのは当然だ、という意識ではなく、ぜひとも意識転換していただきたいということです。キャリア・役割転換にともなう意識転換を60歳を超えて、65歳、70歳まで働く、もしかしたら生涯働く、ということを想定すると、働く期間はとても長くなります。長期化して、最後まで若いときのようにより高いポジションを目ざしてがんばるという「上り続けるキャリア」はあり得ません。どこかで転換して、少しキャリアを下に向けていく。そこを上手に、下に向けることができれば、年齢に関係なくずっと働き続けられるのだと思います。いずれにしても、働く期間が長くなると、ある時点を超えたときに、会社で求められる役割が代わり、キャリアが変わります。そのことを理解して受け入れることが高齢社員に求められることの一つです。例えば、管理職として責任ある仕事をしてきたけれど、これからは転換して、一担当者のプロとして仕事をしていく。そうした場面で、きちんと意識転換ができるかどうか。このことがいくつになっても活躍していくためのキーポイントだと思います。したがって、企業はこのような意識転換を促進するとともに、意識転換を支援する体制も組んでいただきたいと思います。60歳定年制の機能を認識する現在、多くの企業では定年を60歳としていますが、改正高齢法はすでに希望者全員65歳までの雇用を求めています。つまり、定年延長・再雇用にかかわらず、日本はすでに「実質65歳定年時代」といえるのです。今後、定年を延長する企業が増えてくると思いますが、定年延長をしてもしなくても、60歳以降の高齢社員に戦力として活躍してもらうための人事管理は、先ほどお話ししたことと基本は同じです。ただ、注意したいこととして、「定年の機能変化」を頭に入れておいていただければと思います。現在の定年制は、定年を一つの契機として、「キャリア転換促進」の機能が主流になっていると思います。先ほどお話ししたように、職業生活が長くなると、どこかでキャリアを転換する必要が出てくるので、それを促進する機能が現在の60歳定年制ということです。定年を延長するにあたっては、この「キャリア転換促進」機能が、定年延長によって失われるので、「定年延長で何をねらうのか」を真剣に検討しながら、「60歳定年」に代わるキャリア転換装置の構築をセットで考える必要があります。

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