エルダー2021年3月号
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エルダー19FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫桃の節句のころにおいしくなるハマグリ婚礼の席に欠かせないハマグリの吸い物ハマグリは殻が厚く白色で、美しくつやつやしています。2枚の白殻が固く結びついていて、ほかの殻とは絶対に合わないという特徴があります。このため和合のしるしとして、おめでたい婚礼の席には、ハマグリの吸い物が欠かせません。食べごろの旬となるのは、3月から4月ころで、桃の節句にハマグリの吸い物が出されるのも、「女児が美しく、元気に成長するように」という願いが込められていたからにほかなりません。桃の節句のころが、身もふっくらと肥大してもっとも美味となります。婚礼にハマグリ汁が出るようになったのは、江戸の下情によく通じていた8代将軍徳川吉宗のお達しという説が有名です。ハマグリは、三千世界を訪ねても、ほかのハマグリの殻と合うことはありません。ほかの貝殻とは合わない、つまり、一人の伴侶と末長く暮らす仲のよい夫婦の象徴とされてきました。旬のハマグリは、実に美味。ところが、婚礼用のハマグリの吸い物は、汁だけを味わって、身は口にしないのが習わし。次のような江戸の川柳があります。蛤はまぐりは 吸うばかりだと 母おしえ蛤の 吸い物を食って しかられるハマグリの吸い物は磯の香りがするところから、「潮うしお汁じる」とも呼ばれました。すまし汁仕立てでだし汁を用いず、貝を水から入れて火にかけ、塩だけで味を決めます。ひと吹きして貝が開いたら酒少々を入れて調味し、お椀に盛り、吸い口に木の芽を浮かべて出します。人気があった千ち鳥どり焼きハマグリの身を串に数個刺し、味噌をつけて焼く田楽もあり、「千鳥焼き」と呼ばれて江戸っ子に人気がありました。次のような川柳もあります。蛤も 千鳥と化して 味噌をつけハマグリに豊富なタウリンは心臓の機能を高め、肝臓を丈夫にする働きがあり、うまみ成分はアミノ酸のグリシンやグルタミン酸などです。タウリンは目の老化防止にも役立ち、テレワーク時代をバックアップします。329

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