エルダー2021年3月号
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2021.32住友林業株式会社 理事・人事部長羽田一成さん安定法の改正があります。すでに企業には、この法律により、本人が希望すれば65歳まで継続雇用する義務がありますが、今年4月からは、それに加えて70歳までの就業確保措置を導入することが企業の努力義務となります。当面は努力義務にとどまりますが、いずれは義務化する可能性もあり、企業にも対応が迫られます。―そうしたなかで、すでに貴社には65歳までの再雇用制度がありました。その再雇用制度をあらため、定年を65歳に引き上げたわけですね。65歳定年制にふみ切る企業は、まだ多くありませんが、定年延長を選択した理由についてお聞かせください。羽田 高年齢者雇用安定法が企業に義務づけている65歳までの雇用確保措置のなかでは、定年後再雇用制度を採用している企業が多く、当社でも2006(平成18)年から再雇用制度を導入していました。しかしこの制度は、60歳定年で会社をいったん退職し、最長―貴社では2020年4月に、定年を60歳から65歳に引き上げました。制度導入の背景についてお聞かせください。羽田 大きな社会的背景として、少子高齢化の進展があります。労働力人口が減少し、企業はますます労働力の確保が困難になります。また、社員にとっては、公的年金の給付の見直しにより、長い老後生活への不安が高まります。社員が安心して働けないと、仕事へのモチベーションにもマイナスに作用するので、社員の生活の安定は、企業にとっても重視すべき課題です。 公的年金は老後生活の安心にかかわる基礎的な条件ですが、厚生年金の支給開始年齢の段階的引上げにより、次年度60歳になる男性は、65歳から公的年金が支給されることになります。これからは、65歳まで安定的に収入を確保できるよう、社員が働ける場を用意する責任が、企業にもあります。 社会的背景としてもう一つ、高年齢者雇用65歳まで1年ごとに有期契約を更新する形で再雇用するもので、再雇用後の待遇が、定年までとは大きく異なっていました。 再雇用後の報酬水準は、個別契約なので一概にはいえませんが、大まかにいうと定年直前の40%ほどに下がっていました。公的年金も加えれば、年収は従前の3分の2程度の水準を確保できますが、厚生年金の支給が始まるまでは、勤め先収入だけの生活になります。会社としては、社員を雇用する以上、60歳以降であっても安定した生活のできる報酬を保障する社会的義務があります。そこで、再雇用制度を定年延長に切り換え、待遇の改善を図ることとしました。 また、当社の年齢別人員構成は、46〜60歳までが全体の約45%を占めています。ボリュームゾーンは46〜50歳で約20%。今後この大きなかたまりが15年後には60代に移行し、60歳定年のままだと退職・再雇用となります。一方、国の推計では、大卒新社会人の数は今後10年で約10%、20年で約20%の減少が見込まれ※、定年退職で抜けた人員を新卒採用で補充することが、現状よりさらにむずかしくなります。社会全体が高齢化し、若年労働力の獲得がむずかしくなるなかで、60歳65歳まで安心して働ける仕組みの整備は企業の社会的責任※ 「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)より

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