エルダー2021年3月号
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な状況においては、人員削減の必要性は否定されることが多いと考えられます。後述③の「解雇回避努力」とも関連しますが、裁判所においては、当該事業部門の人数が少数である場合などには、解雇以外の選択肢をとることができなかったとは思われないといった心証を開示されることもありますので、対象人数が少ない場合には、人員削減以外の方法がとれない理由も重要になります。一例として、職種限定がなされていることから異動などの選択肢が取れないことなどが考えられますが、その場合でも、合意による異動の打診などは検討することが適切でしょう。解雇回避努力3できるかぎり、解雇以外の方法で、企業経営を立て直すことができないか検討することが、解雇回避努力の要素となります。解雇によって経営の危機的状況などを回避することがねらいとしてあるわけですが、その前に残業代の抑制、余剰人員の出向や配転、希望退職者の募集、退職勧奨による人員削減、役員報酬の削減などが一般的な解雇回避努力の例としてあげられます。どの企業においても検討することが必要となることで比較的多いのは、希望退職者の募集や退職勧奨の実施です。解雇回避努力の一環として希望退職者の募集や退職勧奨を実施することは、必然的に整理解雇の必要性の説明内容や、どのような理由でだれを選択するのかということを検討することにもつながるため、後述④の「人選の合理性や手続きの妥当性」にも関連する事項であり、しっかりと整理解雇の要件(要素)を検討するためにも、希望退職者の候補などを慎重に検討すべきでしょう。人選の合理性と手続きの妥当性4人選の合理性を判断するにあたっては、例えば、過年度の勤務成績が低いものを選択することや、勤続年数、労働者の生活への影響の大きさなどをふまえて決定することが考えられます。万能の基準を想定することはできず、会社の雇用している従業員の人数や年齢、家族構成、勤続年数などの構成をふまえて、検討する必要があります。比較的共通しやすい要素があるとすれば、人事考課上の評価や勤務成績といったものがありますが、人事考課や勤務成績の基準が客観的ではなく主観的なものである場合や、評価基準が不合理な場合にはそれに依拠することが否定される可能性があります。したがって、人事考課や勤務成績についても定量的な要素により客観性が保たれていることを留意すべきでしょう。なお、国籍、信条、社会的身分、性別、婚姻・妊娠・出産、育児・介護、労働組合員であることなどを人選の基準に加えることは、法律上禁止されている差別的取扱いになるため許されません。手続きとして想定されているのは、労働協約や就業規則の根拠に協議条項がある場合には、協議を前置することなどが典型的です。ただし、そのような根拠となる規定がない場合においても、誠実に協議することが求められる傾向があることから、根拠の有無にかかわらず、労働組合や解雇対象となりうる労働者に対し、事前協議や解雇の必要性に関する説明を尽くす必要があります。協議や説明にあたっては、人員削減の必要性、解雇回避努力の手法、人選基準などについてできるかぎり納得を得られるように誠意をもって対応することが求められます。整理解雇が認められた近時の裁判例5東京地裁平成31年3月28日判決は、部門の閉鎖にともなう整理解雇が、整理解雇の4要件(要素)に照らして、有効と判断された事例です。航空会社において、旅客数がおよそ半減するほど人気が低下した路線となった結果、業務量が減少した部門について、減少前の業務量に相当する賃金を支払い続けていたことから、部門削減によるコスト削減が実現できることを理由に、人員削減の必要性を肯エルダー39知っておきたい労働法AA&&Q

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