エルダー2021年3月号
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定しました。また、解雇回避努力の措置および手続きの妥当性に関して、労働組合に対して、通常の退職金に加えて特別退職金として20カ月分の賃金相当額を加算して支払う旨を提案するほか、配置転換による勤務の継続を提案してきたことが相当な内容であったと評価されました。人選の合理性については、部門に所属する賃金の減額をともなう降格に必要な根拠1企業内においては、人事評価の仕組みを構築し、賃金体系を定めることになりますが、その制度は、各企業においてさまざまです。もの全員を対象とするものであることから不合理な点は見当たらないと評価されています。比較的高度な人員削減の必要性がある状況のなか、解雇回避努力および手続きの妥当性について十分な措置をとってきたことが、整理解雇の結論を左右したといえる事案であると考えられます。あえて分類すれば、人が身につけた能力を評価して賃金を定める「職能給」と、人がになう役割や職務の内容に則して賃金を定める「職務給」の2種類の考え方があります。日本においては、「職能給」としての賃金制度が広く定着しており、基本的には、能力が減衰することはないという前提のもと、原則として、賃金の減額は想定されていない制度として運用されています。したがって、「職能給」を前提とする賃金体系においては、労働契約や就業規則において、明確な降格の根拠規定がないかぎりは、降格を実施できないと考えられています。一方で、「職務給」としての賃金制度を採用している場合には、職務の変更をともなう場合には賃金も変更されることが前提とされており、その意味では降格の裁量の余地は広いといえます。しかしながら、賃金の減額という不利益をともなう以上、たとえ「職務給」を採用している場合においても、明確な根拠規定は必要と考えられています。逆説的な発想ではありますが、そもそも職務の変更にともない賃金の減額を行いうることが就業規則や賃金規程において表現されていないような場合は、「職務給」制度を採用していると評価されずに、一般的に定着している「職能給」として判断される可能性もあることから、「職務給」制度を採用していることを明確にする趣旨からも、降格の根拠規定を置くことは重要といえます。人事権の濫用2降格の実施にあたっては、根拠規定が存在することが前提となりますが、その判断は、減給をともなう降格には、就業規則上の根拠が必要であるほか、処分の合理性が求められます。処分の合理性を判断するにあたっては、人事考課基準自体の合理性や降格処分に至るまでの指導経過などもふまえて評価されることから、その経過を記録しておくことが重要です。A2021.340人事考課に基づく降格の有効性について教えてほしい人事評価の結果をふまえて、給料の減額をともなう降格処分を行うことを検討しています。人事権の行使の一環であることから、裁量の余地が広いと考えて問題ないでしょうか。Q2

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