エルダー2021年3月号
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2021.342高齢者は怒りっぽい?「歳をとると怒りっぽくなる」ということを聞くことがありますが、本当にそうなのでしょうか?そう思ってしまう理由は三つあります。一つは、怒りっぽい高齢者の割合は以前と同じでも、高齢者人口が増えたため、怒りっぽい高齢者が目立つようになった。二つ目は、昔よりも寿命が伸びたため、感情のコントロールに支障をきたすタイプの認知症の方が増加した。三つ目は、独居高齢者の増加、年金などの経済的な不安、長寿による健康不安といった高齢者を取り巻く環境が以前と比べて厳しいため、怒りっぽい高齢者が増えた。ただ、これら三つの理由は、歳をとったことが直接的な原因ではありません。むしろ、感情のコントロールをになう感情機能は、若年者よりも高齢者の方が優れていることを心理学や脳神経科学の研究は示しています。歳をとっても衰えない感情機能高齢期は、得るものに対して失うものの割合が多くなる時期です。長く生きればだれもが、何らかの体の不調による「健康の喪失」、両親や友人、配偶者の死による「人間関係の喪失」、引退や子どもの自立などによる「役割の喪失」といった大きなストレスをともなう出来事を、多かれ少なかれ経験します。ですが、高齢者が不幸なわけではありません。図表にあるように、年齢を重ねると幸福感が高まることが示されています。喪失の時期である高齢期の幸福感が、ほかの世代と比較して高いという矛盾は「エイジング2518.018.519.019.520.020.521.021.522.022.523.023.53545556574年 齢幸福感幸福感出典: Mroczek, D. K., & Kolarz, C. M.(1998). The effect of age on positive and negative affect: a developmental perspective on happiness. Journal of Personality and Social Psychology, 75(5), 1333-1349.図表 歳をとるほど幸福感は高まる高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、〝こころ〞に焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。心理学高齢社員の―加齢で〝こころ〞はどう変わるのか―増本康平神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授高齢社員の仕事と感情機能第4回

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