エルダー2021年3月号
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エルダー57佐々木常夫 著/海竜社/1300円+税仁に科しな雅まさ朋とも 著/日本経済新聞出版/1500円+税原田 謙けん 著/勁けい草そう書房/3000円+税本書は都市社会学を専問とする著者が、超高齢社会における高齢者の生きがいや幸福感を解明するために取り組んだ研究をまとめたもの。「エイジズム」(年齢にもとづく偏見・差別)をめぐる調査データ分析を通じて、職場や地域などにおける世代間関係が高齢者の幸福感にどのように影響を及ぼしているのかを考察している。例えば、職場でエイジズムを経験している高齢就業者は仕事に対する満足度が低いということ、上司や同僚によるサポートによってエイジズムが仕事満足度に及ぼす悪影響を緩和していることなどに言及。また、高齢就業者が職場や地域で幸福感を抱くためには、若年者との補完的な関係性を構築することが重要と指摘しており、このような取組みは高齢者雇用の好事例の多くに見出すことができる。人事労務担当者にとって高齢者雇用の質的な充実は喫緊の課題となっており、高齢就業者にモチベーション高く働いてもらうための方策はますます重要になるだろう。実用書のスタンスとは異なるが、超高齢社会における高齢者の生きがいや幸福感の解明という都市社会学の成果から、70歳雇用を成功に導くためのヒントを得ることも可能ではないか。「グチをいっても始まらない」とか、「出るのはため息とグチばかり」などといわれ、そもそも「グチ」は悪いものだと教えられてきた。ところが、「グチは会社の宝物」、「グチの裏側に会社を変える、大きな財産が隠されている」と著者は肯定的にとらえ、グチに着目したユニークな経営改革を実践し、成果をあげている。本書は、組織変革コンサルタントとして20年の実績を持つ著者が、グチという本音をくみ取り、社内のコミュニケーションを円滑にし、生産性を向上させる鍵となる独自の「グチ活」の手法を解説。「グチ活」会議の手順や具体的な実施方法をわかりやすく紹介している。成功事例として、先代についてきた管理職と、自分たちの代で新しいことをしたいという新社長がぶつかり、部下がふりまわされていた会社が、「グチ活」によって上司が成長し、部門ごとに人を育てられる組織となり、事業継承もうまくいったという会社や、部署間の悪口を吐き出したら売上げがアップした会社など7社の「グチ活」事例も盛り込まれている。経営や運営、コミュニケーションに悩むトップや上司をはじめ、会社に不満を感じているビジネスパーソンにも役立つ内容といえるだろう。日本では、60歳を定年としている企業が多いが、60歳を過ぎた人が働いている光景も珍しくなくなった。とはいえ、60歳を人生の大きな節目と考えている人は多くいるだろう。本書は、「60代に突入したら、まずは何をなすべきか」、「何を捨て、何を身につけるか」を考える力が湧いてくる一冊。還暦以後を悔いなく生きるためのヒントが詰まっている。著者の佐々木常夫氏は、自閉症の長男と病気の妻を支えながら仕事でも成果を出し、東レの取締役や大阪大学客員教授などを歴任した経歴を持ち、ワーク・ライフ・バランスのシンボル的存在といわれる。本書には、佐々木氏自らの「どん底からはじまった」という60代の体験とともに、60代の後進に向けて、「人としての力はこれからが発揮のしどころ」、「人のために生きてみろ」というエールや、働くことに関しては「給料が下がっても人の価値は下がらない」、「60代の職場は居心地重視で選べ」、「重たい鎧は早く脱げ」などのメッセージを綴っている。生きることの意義や目的はどこにあるのか。この問いに、「自分を磨くこと」と「何かに貢献すること」と答えている。佐々木氏の人生観から、多くを学べる好著である。「幸福な老い」と世代間関係職場と地域におけるエイジズム調査分析「グチ活」会議社員のホンネをお金に変える技術60歳からの生き方もっと身軽に生きてみないか社会学の視点から高齢者が抱く幸福感を考察コミュニケーションを円滑にし、生産性を向上させる鍵まずは何をなすべきか。悔いなく生きるための道しるべ

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