エルダー2021年4月号
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2021.48なりません。公的年金保険という制度の持つ意味の理解が妨げられるだけです。また、民間の保険においては、「平均的」には「保険料を払っただけの保険金は戻らない」という仕組みに、「必ず」なっています。なぜなら、保険の運営にはコストがかかるからです。多くの場合、保険料の何割かが経費になっています。その分だけ、保険金の総額は保険料の総額より、必ず少ないのです※。それでも、筆者を含め、多くの人が自動車の任意保険、生命保険などの保険に、自発的に入ります。「安心」がほしいからです。しかし、「安心」の価値は、世代会計の計算のどこにもありません。公的年金保険が国民にとってプラスかマイナスかを判断できる方法論ではないのです。もう一つの理由は、人々が、年金給付を自分のライフプランニングにおいて正しく位置づけられるようにするためです。一度、机に向かって、自分の人生の終わりまでの経済生活を考えてみると、自分が何歳まで生きるかわからないことがとんでもない不透明要因であることに、すぐ気づくでしょう。「いくら老後用の貯蓄をしても、想定より長生きしたら貧困に陥る」という不安に襲われます。公的年金保険は、死ぬまで続く「終身」給付であるがゆえに、「長生きリスク保険」として機能し、「長生きしても最低限の生活の糧は確保されている」という「安心」をもたらすのです。そのうえで、私的年金などの自助努力を組み合わせたライフプランニングを考えればよいでしょう。保険と思えば、若者にとっての公的年金保険の意味もクリアになります。ここで、公的年金保険制度がなく、十分な貯蓄のない高齢者は子に扶養されるという状況を想定しましょう。ある一人息子と一人娘のカップルの両親(2組)が、貯蓄なしで引退します。両親がそれぞれ年300万円で生活し、老後期間が30年とすると、カップルの扶養負担は、300万円×2組×30年=1億8千万円 です。巨額です。兄弟姉妹の少なさと両親の長生きがもたらす「扶養リスク」としかいいようがありません。他方、ある家に5人兄弟、別の家に5人姉妹がいて、ここから5組のカップルが生まれたとします。また、両親が引退後、わずか5年で亡くなるとすると、カップル一組あたりの扶養負※ 長期の生命保険などで、「満期には払った以上の保険金が下りて貯蓄になる」ものがあることは事実です。こういう保険は、実は普通の(掛け捨ての)保険と積立貯蓄が合体したものです。積立の分だけ、保険料が高くなっています。保険の部分にかぎれば、「保険料を払っただけの保険金は戻らない」という仕組みは同じです※筆者作成図表 集団から集団へ「仕送り」による公的年金保険収入に応じた保険料過去の保険料支払い実績に応じた給付集団としての高齢者集団としての若者……一人息子一人娘5人兄弟の長男5人兄弟の五男5人姉妹の長女5人姉妹の五女………高齢者 N高齢者 2高齢者 1政 府

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