エルダー2021年4月号
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特集人事労務担当者のための年金入門エルダー9担は、300万円×2組×5年÷5組=600万円にすぎません。公的年金保険がないと、兄弟姉妹の数や親の寿命というコントロール不可能な要素によって、若者の経済生活が大きく左右されてしまいます。では、公的年金保険があればどうなるでしょうか。若者は、政府に対し、兄弟姉妹の数や親の寿命とは関係なく決められた保険料を支払うと、あとは政府が親に給付をしてくれます。つまり、収入などの条件が同じなら、個々の若者の負担は同じになります。公的年金保険は、「集団としての若者」が「集団としての高齢者」を扶養する仕組みです。個々の若者の扶養負担は、「平準化」されるのです。これが、保険であることの意味です。このように、公的年金保険は、親にとっての「長生きリスク保険」であると同時に、子にとっての「扶養リスク保険」でもあるのです(図表)。公的年金保険の環境変化への「適合」わが国の公的年金保険は、現役世代から徴収した保険料をその時点の高齢者への給付にあてる「賦課方式」、あるいは「仕送り方式」と呼ばれる仕組みです。現役世代の人数が多く高齢者が少なければ、現役世代の一人あたりの負担は軽くて済みます。これが、昭和の「騎馬戦型」の制度です。しかし、少子高齢化が進むと、現役世代が減って高齢者が増えるので、「肩車型」になっていき、現役世代の一人あたりの負担が増します。公的年金保険制度を取り巻く環境は激変するのです。こういう大きな環境変化で公的年金保険制度が破綻してしまうかといえば、そんなことにはなっていません。なぜでしょうか。将来若者が減ることは数十年前からわかっていましたから、時間をかけつつ制度を修正してきました。1994(平成6)年と2000年の制度改正では、支給開始年齢が60歳から65歳に徐々に引き上げられることが決まり、その後、実行されています。2004年の制度改正では、保険料率を2017年まで段階的に引き上げていくこととなりました。この間、消費税増税の先送りなどはありましたが、年金保険料率の引上げは粛々と予定通り進行したのです。2004年改正では、現役世代が減ったり高齢者の寿命が延びたりしたら給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」も導入されました。このように、少子高齢化あるいは騎馬戦型から肩車型という環境変化に対して、公的年金保険制度が「適合」したのです。環境変化への「適合」は続く「年金改革」という四文字熟語を目にすることがよくあります。年金制度は変わっていくのです。このことにつき、「制度が変わっていくなんて不安だ」とお思いになりますか。それとも、「制度が変わっていくなら安心だ」とお思いになりますか。世の中の変化は、それも深く広い変化は、決して止まりません。人生100年時代なら、20歳前後で社会に出てから約80年あります。人生の途中で何度も大きな変化を経験するのです。80年前の日本は戦争をしていました。60年前は、「三種の神器」といわれた白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機が急速に普及しつつありました。40年前、日本経済は世界最強といわれていました。女性の寿退職はごく普通でした。20年前は金融危機の只ただ中なかです。この辺りから、生産年齢人口が減少し始め、少子高齢化という言葉が徐々に普及していきます。このように、日本の経済も雇用のあり方も人口の動きも、数十年の期間を切り取れば大きな変化をくり返しています。過去80年にこれだけの変化があったのですから、次の80年にも同じ

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