エルダー2021年4月号
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より業務に必要な学習などを行っていた時間これらのうち③が、今回の質問に最も近い内容であり、勉強会の時間は、労働時間に該当するという可能性があります。重要な判断要素2研修・教育訓練の受講や業務に必要な学習などという内容からすれば、労働時間に該当するという判断になりそうですが、労働時間該当性の要素には、「参加することが業務上義務づけられている」ことや「使用者の指示により」という要素が必要です。この点を考慮することなく、一律に就業時間外の勉強会などを労働時間とみることはできません。「使用者の指示により」という点については、明示の指示であれば明確であり、会社の指示に基づき参加させられている場合には、労働時間に該当するといえそうです。しかしながら、現実には、「参加をうながすこと」と「指示して参加させること」は、外形的には類似する場合もあり、使用者からの意図と労働者の受け止め方が相違する可能性があります。したがって、会社から参加するよう求められたとしても、それが「指示」といえるのかという点は、必ずしも明確ではないということもありえます。また、「参加が業務上義務づけられている」という点についても、義務づけているのか否かについては、指示による場合と同様に、受け止め方の相違も生じることがあり、必ずしも明確ではないケースもあります。つまり、「参加することが業務上義務づけられている」ことや「使用者の指示により」という要素が非常に重要であるにもかかわらず、その判断がむずかしいのです。裁判例の傾向3労働時間の定義を示した三菱重工長崎造船所事件の判決では、業務の準備行為等を行うにあたり「就業規則において」作業服および保護具等の着用が義務づけられていたこと、これを怠ると「懲戒処分」を受けたり、成績考課に反映されて「賃金の減収にもつながる」場合があったことなどを考慮して、指揮命令下にあったとして、労働時間該当性を肯定しています。したがって、実際に個別具体的な指示があったか否かということのみならず、その指示に対して、労働者が従わなければならないか、従わなければ不利益(懲戒処分や人事考課上の不遇を受けるなど)があるかという点が重要な判断要素となっていると考えられます。例えば、近年の裁判例でいえば、大阪地裁令和2年3月3日判決においては、就業時間外に行われていた安全衛生に関する「安全活動」と呼ばれていた時間帯と、月に1回から3回程度開催していた「勉強会」について、それぞれの労働時間性が争点となりました。当該裁判例では、「安全活動」については、①就業規則に安全活動に関する規定は存在しないこと、②出欠が取られるものでもなく不参加の場合制裁が課されるものでもないこと、③参加によって査定などで有利になるものでもないことなどを考慮して、労働時間に該当しないと判断しています。判断要素のうち、①については、参加を義務づける規定がないことを考慮しており、③の根拠を翻せば、人事考課上の不利益を受けるわけでもないことを考慮しているといえます。一方で、「勉強会」については、①原告となった労働者が参加しないことが想定されていないこと、②参加することなく技術が身につかないままであれば、賃金や賞与の査定、従業員としての地位に影響することが明らかであること、③就業規則に、「会社は、従業員に対し、業務上必要な知識技能を高め、資質の向上を図るため、必要な教育訓練を行う」、「従業員は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合は、特段の事由がない限り指示された教育訓練を受講しなければならない」と規定されていることなどを考慮して、安全活動の時間とは異なり、労働時間に該当するという結論に至っています。①の要素から、エルダー37知っておきたい労働法AA&&Q

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