エルダー2021年4月号
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2021.42日本経済新聞編集委員 兼 紙面解説委員田村正之さんれたときに、互いに助け合う扶助の仕組みであり、将来自分が使うために積み立てる貯蓄ではありません。 公的年金がカバーするリスクは、第一に何歳まで生きるかわからないことです。これを予測できないために、老後資金を自分でどれだけ備えたらよいかわからない。その点、公的年金は終身にわたり受給できますから、生きているうちに受給が途絶える心配がありません。第二は、病気やけがで働けなくなって収入を得られなくなるリスクです。そうしたときに公的年金加入者は障害年金を受け取ることができます。第三のリスクは、一家の大黒柱が亡くなること。そんなとき残された家族には遺族年金が出ます。 公的年金は、これら人生の三大リスクに備える総合保険ですが、もう一つ重要な点は、インフレというリスクにもある程度対応できることです。公的年金の金額は、受給開始後に物価が上がった場合、ある程度物価に連動―若い世代には「将来、公的年金はあてにできない」と思う人が少なくないようです。また、若い世代だけでなく、2019(令和元)年にニュースになった「老後資金2000万円問題」は、中高年にも動揺を与えました。この先、公的年金は頼りになるのでしょうか。田村 たしかにそのような不安はよく耳にします。しかし多くは、公的年金制度を正しく理解していないことから生じています。 まず、年金は「保険」であることを知っておく必要があります。長期間保険料を払っても、払った分だけもらえないという不信感をもつ人もいます。そういえるかどうかは、どういう前提で計算するかで違った結論になりますが、たとえ払った分が返ってこなかったとしても、保険とはリスクに備えてかけておくもので、貯金とは異なります。例えば住宅の火災保険を何年もかけ続けた人が、火災が起こらず保険料が無駄になったと怒ることはないでしょう。保険とは大きなリスクに襲わできる仕組みになっています。こうした物価連動は、民間の保険では無理です。 公的年金でそれが可能なのは、現役世代から高齢世代に仕送りをする賦ふ課か方式※1だからです。インフレが起きている状態では、現役世代の賃金も通常は上がっています。その分、現役世代からの保険料収入も大きくなり、給付額を増やせる仕組みです。―賦課方式では、少子高齢化が進み、負担する世代と受給する世代との人数バランスが崩れて、仕送りの仕組みが持ちこたえられなくなることを心配する声もあります。田村 20〜64歳を「支える人」、65歳以上を「支えられる人」と考えると、1980(昭和55)年には支え手6・6人、2010(平成22)年には支え手2・6人で1人を支えていましたが、2040年には1・4人で1人を支えることになり※2、現役世代の負担が重くなりすぎると心配されています。 しかし、この議論で見るべきなのは、単純な年齢別の人口比ではなく、働いて保険料や税金を負担している人と、働いていない人との比です。就業者1人が支える非就業者の人数は、1980年が1・1人、2010年が1・03人、2040年を予測すると1・1人公的年金は人生の三大リスクをカバーしインフレにも強い総合保険※1 賦課方式……年金支給のために必要な財源を、そのときどきの保険料収入から用意する方式※2 日本の将来推計人口(平成29年推計)/国立社会保障・人口問題研究所より

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