エルダー2021年4月号
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2021.440仕事をマネジメントする際、社員がどの程度適切な意思決定ができるかは、その社員に任せる仕事内容を判断するうえで不可欠な情報です。また、社員にとっては自分の仕事に対する意思決定の裁量(例えば、仕事の仕方やスケジューリングなど)が大きければ仕事のやりがいにつながり、逆に小さければストレスを強く感じ精神的健康に影響します。今回は意思決定のメカニズムと加齢の関係についてお話します。われわれの意思決定は合理的なのか?「人生は選択の連続である(シェイクスピア『ハムレット』)」という言葉があります。何を食べるか、何を着るか、といったちょっとした選択から、どの学校を受験するか、どの会社に就職するか、だれと結婚するか、といった重大なものまで、私たちは日々、さまざまな選択を迫られます。正しい選択肢がわかっている場合、私たちは基本的に合理的な判断が可能です。ですが、「どのプロジェクトに注力すべきか」、「顧客の満足度を高めるにはどのサービスがよいのか」といった、正解がその時点ではわからない不確実性の高い意思決定を行う際、私たちの判断には合理的な判断を阻害する、さまざまな思考の偏りがあることが明らかになっています。例えば、「アメリカのサン・ディエゴとサン・アントニオ、どちらの人口が多いですか?」。サン・アントニオのほうが若干人口は多いのですが、多くの人が「サン・ディエゴ」と回答します。適当に答えれば半々になるはずですが、サン・ディエゴと回答する人が多いのはなぜでしょうか。人は自分が知っていることを過大に評価する傾向があり、サン・アントニオは聞いたことがないので、自分が知っているサン・ディエゴのほうが人口は多いだろう、という直感的な判断を行うからです。次の二つの選択肢AとBを提示されたら、あなたはどちらを選びますか? A  90%の確率で10万円もらえる。B 確実に9万円もらえるでは次のCとDの場合はどうでしょうか?C 90%の確率で10万円失う。D 確実に9万円失う。AとBではどちらも期待値(確率×利得)は9で同じですが、多くの人は、確実に9万円をもらえるBを選択します。利益獲得の場面では、人は利益を得られなないリスクを避け、小さくても確実な利益を選択する傾向にあります。CとDも期待値は-9でどちらも同じです。しかし、多くの人は罰金を払わなくてもすむ可能 高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、〝こころ〞に焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。心理学高齢社員の―加齢で〝こころ〞はどう変わるのか―増本 康平神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 高齢者の意思決定の特徴第5回

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