エルダー2021年4月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー41性のあるCを選択します。AとBの選択とは異なり、損失に関する選択の場合は、損失が大きくなるリスクがあっても、なるべく損失そのものを避ける選択をする傾向が人にはあります。図表は利得と損失の心理的価値に関する有名なプロスペクト理論を示したものです。縦軸が心理的価値を、横軸は利得と損失を表しています。この図は、利得や損失が多くなれば心理的反応が強くなるだけでなく、利得よりも損失を1・5〜2・5倍ほど強く感じる非対称性があることを示しています。200万円を獲得して感じる満足よりも、200万円を損して感じる不満の方が強いのです。そのため人は損失を避ける選択(損失回避)をしがちであり、損失回避を重視した結果、チャンスを逃す選択をしてしまうこともあります。なぜ意思決定には偏りがみられるのか?私たちが何かを選択する際、頭の中では大きく二つの情報処理が行われます。一つは、好きか嫌いか、良いか悪いかといった感情的、直感的な情報処理、もう一つは分析的、論理的な熟考のための情報処理です。意思決定場面では、どのような選択であっても、まず直感・感情による判断が行われ、その後、その選択で適切かどうか分析的な判断が行われます。「好き、嫌い」といった感情的判断や「損失を回避したい」という直感的判断は、論理的で客観的なものではありません。そのため、正解がわからないような意思決定の場合は、感情・直感的な判断に依存してしまい、合理的な判断ができない場面が生じます。加齢にともなう意思決定の変化だれしも、即決が求められ考える余裕がない状況や、選択肢が多数ある状況、いままで経験したことがない選択を行う状況では、誤った選択が多くなります。特に高齢期では、熟考のための情報処理が、加齢にともない低下する認知機能に依存しているため、それが顕著です。また、高齢者は自分が持っている知識を過大評価する傾向があるため、助言を受け入れにくくなるというデータもあります。一方で、長い人生のさまざまな経験によってつちかわれた直感や、歳を重ねるごとに安定する感情が基盤となる直感・感情的な情報処理は、加齢の影響を受けにくく、むしろ洗練されます。そのため、一般的には複雑な選択であっても、経験をいかすことのできる判断が求められる場合、経験が少ない若年者より迅速で適切な判断が可能です。また、以前の連載でも説明しましたが、高齢者はポジティブな情報を重視する傾向があります。そのため、損失回避といったネガティブな情報を重視しすぎる結果生じる認知バイアスの影響を受けにくい、という研究もあります。加齢が意思決定に及ぼす影響については、まだわからないことが多いのですが、経験に基づいた判断を必要とする仕事のパフォーマンスは、高齢期でも高い水準で維持されることは研究からも裏づけられています。【参考文献】ダニエル・カーネマン (2014)『ファスト&スロー(上・下)』早川書房Baltes, B., Rudolph, C. W., & Zacher, H. (Eds.). (2019). Work across the lifespan. Academic Press.++--金額100-100-200200心理的価値損失利得出典: ダニエル・カーネマン(2014)『ファスト&スロー(下)』 早川書房.図表 損失と利得の心理的価値

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