エルダー2021年4月号
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エルダー57濱はま口ぐち桂一郎 著/独立行政法人労働政策研究・研修機構/1100円高たか仲なか幸ゆき雄お 著/経団連出版/2200円小お塩しお隆たか士し 著/日本経済新聞出版/2640円日本社会の高齢化とともに、健康問題への関心が高まっている。健康問題の解明は医学の専門家によるものが多くを占めるが、本書は、教育や社会保障などの実証分析で知られる社会科学の研究者が、社会的な要因によって左右される日本人の健康の実態を明らかにするために取り組んだ研究成果をまとめたところに特徴がある。経済政策や社会政策と健康との相関関係について、多くの興味深い見解が示されている。著者は、厚生労働省が公表している「国民生活基礎調査」や「中高年者縦断調査」などの大規模な社会調査のデータを分析に活用し、「就職氷河期世代の健康状態」、「非正規雇用の健康面からの評価」、「中高年の健康格差と学歴の違い」、「家族の介護と中高年のメンタルヘルス」などを実証的に分析している。60歳以上の高齢者の労働を健康面から取り上げる「第7章 高齢者はどこまで働けるか」では、「60歳台後半でも男性は三割、女性は二割程度就業率を引き上げる余地がある」と言及しており、健康寿命の現状をふまえれば、実感として、妥当な指摘といえるのではないか。これからの高齢者雇用のあり方を再検討する際にも役立つ、貴重な研究成果として一読をおすすめしたい。働き方改革関連法によって「同一労働同一賃金」に関する法改正が行われ、高齢者の雇用、とりわけ定年後の再雇用者の待遇にも大きな影響がもたらされた。改正法は2020(令和2)年4月に施行され、2021年4月からは、中小企業でも対応が求められるようになった。こうしたなか、2020年10月に出された同一労働同一賃金をめぐる5件の最高裁判決が大きな注目を集めたことで、人事労務担当者のなかには、自社の賃金制度をあらためて見直した方も少なくないのではないかと思われる。本書は2019年に同一労働同一賃金の実務解説書として発刊し、好評を博した書籍の改訂版で、前述した最高裁判決5件の内容をふまえた改定増補版ともいえるもの。「1.総論」、「2.均衡待遇・均等待遇の規制」、「3.待遇ごとの検討」、「4.待遇差の説明義務」、「5.派遣労働者の待遇」、「6.その他」からなる。Q&A部分の構成には変更はないが、解説文の随所に最高裁判決をふまえた留意点が新たに盛り込まれている。「均衡待遇・均等待遇をめぐる判例・裁判例の概要」をはじめとした、「参考資料」も充実しており、同一労働同一賃金の全体像をつかむための格好の入門書といえるだろう。新型コロナウイルス感染症が国内で確認されて1年3カ月。このウイルスは、日本の労働政策にどのような影響をもたらしているのか。本書は、2020(令和2)年8月20日に開催された東京労働大学特別講座「新型コロナウイルスと労働政策の未来」の内容をブックレットとしてまとめたもの。著者の濱口桂一郎氏は労働政策研究・研修機構労働政策研究所所長であり、本誌2020年9月号「リーダーズトーク」に登場していただいた。本書では、新型コロナウイルス感染症への緊急対策として打ち出された政策のうち、大きく四つ(①雇用維持、②非正規雇用、③フリーランス、④テレワーク)に分けた各労働政策について、歴史的経緯をふり返りつつ、その政策的意義について検討・分析を行っている。具体的には、雇用調整助成金の要件緩和や適用拡大、新たな休業支援金の制定、アルバイト学生へのセーフティネットの構築、学校休校によってクローズアップされたフリーランスへのセーフティネット、一斉に拡大したテレワークの経緯や現在の問題点など。コロナ禍において浮き彫りになった課題にも目を向けて、労働政策の未来に活かしていく内容となっている。日本人の健康を社会科学で考える同一労働同一賃金Q&A 第3版ガイドライン・判例から読み解く新型コロナウイルスと労働政策の未来大規模調査のデータを活用し、日本人の健康状態を左右する要因を探る2020年10月の最高裁判決に対応した最新版緊急対策として打ち出された政策の過去・現在を検証し、今後に活かす

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