エルダー2021年4月号
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2021.44日本経済新聞編集委員 兼 紙面解説委員田村正之さん物価に対して給付額の伸びが低い状況が続くので、年金財政の支出増加は抑制されます。 また、団塊世代が働き盛りのうちに少し多めの保険料をもらって積立金も大きく増やしてきているほか、受給者数の増加が永遠に続くわけでもないので、公的年金が破綻する心配はありません。―マクロ経済スライドで受給額が減ると、年金財政の破綻は防げても、年金生活者の生活が破綻することになりませんか。田村 それはよくある誤解です。現役世代の平均の手取り額に対する受給額の比率、すなわち所得代替率は下がりますが、年金額はそれほど下がりません。 厚生労働省がモデル世帯としている「会社員と専業主婦」世帯の65歳時点の年金月額は2019年度で22万円です。現役世代の平均手取り賃金は35・7万円なので、所得代替率は62%です。物価上昇率年0・8%、賃金上昇率年1・6%などの厳しめの条件を入れて計算すると、2019年度時点で45歳の人の受給が始まる20年後の年金月額は21万円となります。財政検証では賃金上昇が20年続く前提なので、現役の賃金は40万円に上昇しますから、所得代替率は52%と10ポイント下がりますが、受給開始時の年金額は22万円から21万円へと、微減にとどまります※4。 この21万円は、20年後の名目金額ではありません。ここもよく誤解されるのですが、20年間の物価上昇を割り引いて現在価値に置き換えた値です。所得代替率が10ポイントも下がると、老後は貧乏な暮らしが避けられないと悲観する人もいますが、受給する年金額の購買力が大きく下がるわけではないのです。―それでも、公的年金だけではかなりつつましい老後生活になります。自助努力でもう少し豊かでゆとりのあるレベルを目ざす場合のアドバイスをお願いします。田村 まずは、終身支給の公的年金のメリットを最大限活用することを考えたいですね。定年後もなるべく長く働いて、年金の受給開始をくり下げることで、受給額は大きく増えます。年金額を増やすには、定年後も厚生年金に加入して働くことがポイントです。また、配偶者も厚生年金に加入して働くことをおすすめします。年金のモデル世帯である「会社員と専業主婦」はもはや時代遅れです。目先の手取り減にこだわらず「年収の壁」を超えて働く主婦が増えています。年金をいくら受け取れるかは、あらかじめ決まっているのではなく、自分の選択次第で大きく変わりうるのです。 そして、退職金や確定拠出年金、自分で準備する資金は、公的年金に上乗せして細く長く使っていこうとすると、長寿化の時代、途中で尽きてしまうリスクがあります。年金受給開始をくり下げて増額することで「長生きリスク」は終身給付である公的年金にまかせ、自力で準備するお金は受給開始を遅らせる期間に賄う分を目途に準備する「継投方式」を考えれば、必要額などの計画も立てやすくなるでしょう。公的年金のメリットを最大限活かしながら自己資金も準備する老後の生活設計を(聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一撮影/中岡泰博)※4 2019年財政検証結果(厚生労働省)をもとに、田村氏が独自に計算

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