エルダー2021年4月号
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エルダー7特集人事労務担当者のための年金入門はじめに﹃エルダー﹄編集部から本稿執筆のお話をいただいた際には、「人生100年時代の公的年金制度」というタイトルが前提でした。しかし、筆者からお願いして、「保険」の2文字を入れて「公的年金保険制度」としていただきました。なぜでしょうか。答えは、単純です。公的年金は保険だからです。「被保険者」が「保険料」を払って成り立っている制度です。高齢者に給付されるお金は「保険金」なのです。火災保険の保険金が支払われるのは、火災が起きたときです。では、公的年金保険で保険金が支払われる(給付が行われる)のは、何が起きたときでしょうか。答えは、「長生き」です。「保険」であることをなぜ強調するのか公的年金が「保険」であることは、もっと強調されるべきです。なぜでしょうか。理由のうちの二つをお示ししましょう。一つは、「積立貯蓄」であるという誤解を解くためです。毎月保険料を払うと将来給付を受けられる、という仕組みは「積立貯蓄」とよく似ています。「積立貯蓄」という理解でも、何ら実害はないように見えます。しかし、そういう理解が行き過ぎると、おかしなことになるのです。一昔前になりますが、「払っただけもらえない年金は無意味」という俗説が、「世代会計」という計算とともに広まったことがありました。世代会計の計算では、人々を生まれた年によっていくつもの集団(世代)に分け、各世代の受け取る給付から払う保険料を差し引いて、プラスなら「得」、マイナスなら「損」と結論づけます。計算にあたっては、「平均寿命・余命まで生きる」などの仮定を置き、﹁現役期の保険料合計﹂マイナス﹁平均寿命・余命までの給付合計﹂を出して、「この世代の人は﹃平均的には﹄こうなる」と示すものです。計算結果は、少子高齢化や経済成長の減速を映じて、若い世代ほどマイナスが大きくなります。このことから「若者は損をする」という主張が、あたかも客観的、定量的な裏づけがあるかのようにして広く行われました。しかし、概おおむね半分の人は平均寿命・余命より長く(または短く)生きて、平均より多い(または少ない)給付を受けます。「平均的な人」の数値に大した意味はありません。世代会計の計算をして、「損だ、得だ」と騒いでも何にも総 論人生100年時代の「公的年金保険制度」大妻女子大学短期大学部 教授 玉木伸介

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