エルダー2021年5月号
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2021.58基礎年金部分の受給開始年齢を65歳に引き上げるという法案を国会に出したところから始まります。雇用をどうするんだという野党の批判を受けて、労働省は急きゅう遽きょ翌1990年に65歳までの(個別の)再雇用義務を規定する法案を国会に出したのですが、そのときには年金の受給開始年齢引上げ部分は削除されていました。後から駆けつけた労働省がはしごを外された格好ですが、なんとか成立しました。捲けん土ど重ちょう来らいを期して厚生・労働両省が二人三脚で行ったのが1994年改正です。厚生年金の基礎年金部分の受給開始年齢を65歳に引き上げていくとともに、65歳までの(制度としての)継続雇用制度導入の努力義務を規定し、行政措置も揃えました。さらに1986年に努力義務化された60歳以上定年を法的義務とするとともに、別途雇用保険制度のなかに高年齢者雇用継続給付を設け、定年後再雇用で大きく下がった賃金の一定部分を補填することにしました。このとき筆者は課長補佐としてたずさわりました。ところでこの改正には、なぜ60歳は定年なのに、65歳は継続雇用なのかという素朴な疑問が生まれます。これは日本型雇用システムの本質にかかわる大きな問題です。もともと生活給に基づく年功賃金を、能力が向上しているから賃金も上がるのだ(職能給)と説明してしまったために、いったん上がってしまった賃金を引き下げる契機がなく、60歳定年までは我慢できるけれども、その高給のまま65歳まで雇うわけにはいかないというのが企業側の本音だったからでしょう。その本音を正面から受け止めたのが高年齢者雇用継続給付であったわけです。そもそも定年とは英語で「mandatory retirement age」(強制退職年齢)ですが、60歳定年後65歳まで継続雇用が義務づけられるならば、60歳で強制的に退職させられる人は一人もいないはずです。努力義務や適用除外があるうちは60歳での強制退職がありうるので説明がつ図表 高年齢者雇用安定法と関連政策高年齢者雇用安定法関連政策1954年厚生年金保険法改正→厚生年金の受給開始年齢を55歳から60歳に段階的に引上げ1971年中高年齢者雇用促進特別措置法 施行45歳以上の中高年齢者の職種別雇用率を設定1973年雇用対策法 改正→国による定年の引上げに向けた支援施策を開始1976年55歳以上の高年齢者雇用率制度を創設1986年高年齢者雇用安定法に改称60歳以上定年の努力義務化1990年65歳までの再雇用の努力義務化1994年60歳以上定年の義務化65歳までの継続雇用制度の努力義務化厚生年金保険法 改正→厚生年金の基礎年金部分の受給開始年齢を段階的に引上げ (2000年60歳→2012年65歳)2000年高年齢者雇用確保措置(定年廃止、65歳までの定年延長、65歳までの継続雇用制度)の努力義務化厚生年金保険法 改正→厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢を段階的に引上げ (2013年60歳→2025年65歳)2001年雇用対策法 改正→採用における年齢差別禁止を努力義務化2004年高年齢者雇用確保措置の義務化(労使協定により65歳までの継続雇用について対象者の限定が可能)2007年雇用対策法 改正→採用における年齢制限を原則禁止2012年高年齢者雇用確保措置を義務化(労使協定による対象者の限定を廃止※2025年度までの経過措置あり)労働契約法 改正→有期契約労働者の不合理な労働条件の禁止2020年70歳までの就業機会確保を努力義務化

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