エルダー2021年5月号
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特集歴史に学ぶ高齢者雇用エルダー9きますが、65歳継続雇用が全面義務化されると、強制退職年齢は65歳であり、60歳は労働条件の精算年齢(それまで積み上げてきた年功をいったんなしにする年齢)に過ぎなくなります。本来定年でないものを定年と呼ぶことで、その構造を見えにくくしてきたといってもいいかもしれません。65歳までの継続雇用政策と年齢差別禁止政策の交錯3その後1990年代末には中高年齢者を念頭に置いた年齢差別禁止政策が浮上し、以後21世紀の高齢者雇用政策は両者が交錯しながら進んでいきます。まず2000年の高年齢者雇用安定法改正は、65歳までの継続雇用に加えて65歳定年と定年廃止まで(高年齢者雇用確保措置)を努力義務の対象としました。一方、2001年の雇用対策法改正は、労働者の募集採用について年齢にかかわりなく均等な機会を与える努力義務を定めました。もっとも10項目にわたる広範な例外が設けられていました。2004年の高年齢者雇用安定法改正では高年齢者雇用確保措置を義務化しましたが、経営側の反発が強く、労使協定で65歳までの継続雇用対象者を限定できることとしました。この改正では同時に、募集採用時の年齢制限についてその理由を明示する義務を定めています。2007年の雇用対策法改正では、募集採用における年齢制限を原則禁止するところに踏み込みました。例外も極めて限定的です。とはいえ、新卒採用から定年退職まで年功昇進する日本型雇用システムにおいて、入口だけ年齢差別を禁止したところで、大勢に影響を与えるようなものではありえませんでした。2012年の高年齢者雇用安定法改正の原動力も年金です。厚生年金保険の2階部分(報酬比例部分)についても2013年から2025年まで(女性は2018年から2030年まで)段階的に65歳に引き上げることとされていたため、その開始を目前にして改正が行われたのです。これにより労使協定による対象者限定は廃止され、(一定の子会社、関連会社への転籍を含め)65歳までの継続雇用が義務化されたのです。ということは、少なくとも2012年改正以後は「60歳定年」はいかなる意味でも年齢に基づく強制退職年齢ではありえなくなったわけです。それでも「60歳定年」と呼び続けている理由は、60歳を契機とする労働条件の精算(その時点での労働力価値への引下げ)を労働条件の不利益変更としないために、いったん雇用契約を終了するという形式が必要だからでしょう。しかし、思わぬところから伏兵があらわれました。2012年の労働契約法改正により有期契約労働者の不合理な労働条件が禁止されたことから、60歳定年後の再雇用者が60歳前と比べたその低賃金を不合理だと訴える訴訟が提起されるに至ったのです。最高裁は2018年の長澤運輸事件判決で引下げを容認しましたが、常に不合理ではないかと問われ続けることに変わりはありません。また、1994年に65歳までの継続雇用を促進するためという名目で設けられた高年齢者雇用継続給付も、2012年改正によってその創設時の存在意義が完全に消滅したはずです。にもかかわらず今日まで制度が存続し続けているのは、それが定年精算後の低賃金を補填するという社会的機能を果たしているからですが、雇用保険法上はもはや正当化しきれない状態です。ようやく2020(令和2)年雇用保険法改正により、2024年度までは現状を維持したうえで、65歳未満の継続雇用制度の経過措置が終了する2025年度から新たに60歳となる高齢者への給付率を15%から10%に縮小するとともに、激変緩和措置を講じることとされました。70歳までの「就業確保措置」42020年の高年齢者雇用安定法改正は、努

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