エルダー2021年5月号
12/68

2021.510力義務とはいえ年齢のターゲットを70歳に引き上げるという意味で高齢者雇用政策の一大転機であることは明らかですが、その働き方の選択肢のなかにフリーランスやボランティアまで含まれるに至ったという点でも注目に値します。改正の元になった2019年の成長戦略実行計画では次のように書かれていました。(a)定年廃止(b)70歳までの定年延長(c)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)(d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現(e)個人とのフリーランス契約への資金提供(f)個人の起業支援(g)個人の社会貢献活動参加への資金提供(a)~(c)はこれまでの高年齢者雇用確保措置と同じですが、これを60代後半層にそのまま押しつけるのは無理だろうということで(d)以下が加えられているのです。まず(d)ですが、65歳までの(子会社・関連会社を除く)他企業への再就職援助は高年齢者雇用安定法第15条ですでに努力義務となっています。ところが、65歳から70歳までの再就職援助は「65歳以上継続雇用制度」に含まれて別の新たな努力義務がかかるという、いかにも奇妙な概念設定になっています。とはいえ、ここまではまだ「雇用」の枠内です。(e)以下は「創業支援等措置」と呼ばれていますが、非雇用型の就業です。(g)に至っては、そもそも「就業」の名に値するのかさえ明確ではありません。法改正作業やその後の省令・指針などの制定の過程のなかでかなりその姿は明確化されましたが、逆にそれが真のフリーランスやボランティアといえるようなものになっているのかについても、やや疑問が残ります。すなわち、一方で「労働者性が認められるような働き方とならないよう留意」せよといっていながら、他方では雇用契約に匹敵するような保護が与えられるようにせよという要請になっていて、なかなか据わりの悪い建てつけになっているのです。非雇用型の高齢者就業政策としてすでにあるシルバー人材センターとの関係も曖昧ですし、現在政府全体として進められている雇用類似の働き方に対する政策との関連も明らかではありません。ずっと裏道の外部労働市場政策5ここでいきなり第15条の再就職援助努力義務が出てきましたが、この規定は実は1986年改正以来存在しており、それ以前は雇用対策法に60歳未満定年事業主への再就職援助計画作成要請規定として存在していました。高年齢者雇用安定法は長らく定年と継続雇用という内部労働市場にばかり目を向ける法律として発達してきたとはいいながら、外部労働市場志向の政策も目立たない裏道としてひっそりと存在してきたのです。2000年改正では対象が45歳以上の中高年齢者にも拡大され、 職業人生後半期の一般的な努力義務として出口における一定の配慮を求める規定に一歩進んでいます。翌2001年雇用対策法改正による入口における年齢差別禁止規定と相まって、外部労働市場型の高齢者雇用政策に進化していく第一歩となり得たかもしれませんが、その後は依然として裏道であり続けました。有期雇用の年齢を理由にした雇止めなど、これまでの枠組みでは救いきれない問題も多くあるなかで、再就職のみならずフリーランスやボランティアまで内部労働市場型の政策枠組みに無理やり押し込めるようなやり方が持続可能なのかについては、中長期的観点から再検討する必要がありそうです。

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る