エルダー2021年5月号
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2021.514多くありません。さらに、報酬管理のなかでも最も重要である基本給についてみると、第一に、社員格付け制度が導入されていないことからも明らかなように、定年制の状況にかかわらず、報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれ、特に、雇用確保措置企業で顕著にみられます。と同時に、雇用確保措置企業では現役正社員とは異なり、「仕事の難易度」や「期待する役割」に応じて基本給が決められており、「仕事の難易度」や「期待する役割」が変わらなければ、基本給が変わらない仕組みになっています。第二に、65歳以上の定年企業と雇用確保措置企業の違いが顕著にあらわれているのが、「昇格(昇進)なし」の賃金制度、賞与・一時金制度および退職金(慰労金)制度であり、その背景には、雇用確保措置企業では高齢社員の雇用形態が非正規雇用であるため、昇格(昇進)、賞与・一時金および退職金(慰労金)を支給対象者にしていないからといえます。おわりに―2021年改正高年齢者雇用安定法に企業はどのように対応するのか―32021(令和3)年改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保義務に加えて、個々の労働者の多様な特性やニーズをふまえ、65歳から70歳までの就業機会の確保のための多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの高年齢者就業確保措置を講じる努力義務が課されることになりました。具体的には、①70歳までの定年引上げ、②70歳までの継続雇用制度の導入、③定年廃止、労使で同意したうえでの雇用以外の措置(④継続的に業務委託契約する制度、⑤社会貢献活動に継続的に従事できる制度の導入のいずれか)があげられます。こうした法改正のもとで、今後、どのような人事管理を展開していけばよいのでしょうか。重要な点は、どのような人事管理を展開するにしても、高齢社員に対して現役正社員と異なる人事管理を採用する場合には、企業が高齢社員の活用方針を明確にすることと、それを高齢社員と現役正社員に浸透させるための支援策を実施することが強く求められます。雇用確保措置企業に代表されるような「分離型の人事管理」の場合には、定年(多くの企業では60歳)を契機にして現役時代とは異なる仕組みのもとで評価され処遇されることになるので、高齢社員には新しい人事管理に適合するために働く意識と処遇に対する期待を転換することが求められ、転換が十分でないと労働意欲の低下につながります。そのため、「分離型の人事管理」を採用する企業は「統合型の人事管理」以上に、高齢社員に「なぜ人事管理が変化するのか」を納得してもらうための方策を強く打ち出す必要があります。このことは、65歳以降、非雇用型での活用を進める場合には特に重要になってくると考えられます。(注1)(財)高年齢者雇用開発協会(1984)『高齢化・定年延長と人事管理に関する調査研究報告』、(財)高年齢者雇用開発協会(1985)『高齢化社会における人事管理の展望に関する調査研究報告』、(財)高年齢者雇用開発協会(1985)『高齢化・定年延長に伴う賃金・退職金調整事例』及び、(財)高年齢者雇用開発協会(1987)『高齢化に対応する人事施策に関する調査』、の調査結果に基づいてまとめられている。(注2)(独)高齢・障害者雇用支援機構(2010)『人事制度と雇用慣行の現状と変化に関する調査研究第一次報告書︱60歳代前半層の人事管理の現状と課題︱(平成21年度)』及び(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化︱「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より』、の調査結果に基づいてまとめられている。※本稿を作成するにあたり、使用した(財)高年齢者雇用開発協会の報告書については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構雇用推進・研究部の鹿生治行専門役から協力を得ました。記して謝意を表します。

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