エルダー2021年5月号
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特集歴史に学ぶ高齢者雇用エルダー21て、『人』は財産です。私で四代目になりますが、代々の代表がみな、人を育てて活かすことを大事にしてきました。その結果としての現在です」と西島社長は語る。創業時から家族的な一体感を有する風土を育み、定年制を意識することなく歩んできた同社だが、「定年なし」を正式に表明するに至るきっかけがあったという。バブル崩壊後の1990年代半ば、自動車業界の設備投資が落ち込んで、同社への工作機械の依頼も激減した。一方で、地元近くの渥あつ美み半島では特産品の電でん照しょう菊ぎくの栽培が盛んになり、栽培農家は出荷作業に追われていた。それも高齢の農家が多く、手作業のため負担が大きかったという。そこで、出荷作業を軽減するための機械の開発が同社に打診された。同社にとって生花を扱うのは初めてで難航したが、当時60代のベテランの技術者たちが知恵と技と熱意を持って取り組み、試行錯誤の末の半年後、下葉の除去や茎の裁断、箱詰めするまでを自動化する「自動選花機」を開発した。このことは同社を窮地から救っただけでなく、ベテラン技術者の存在の大きさをあらためて認識する機会となり、三代目の西島篤とく師し氏が代表取締役社長に就任した1995年、同社の「定年なし」が正式に表明されるところとなった。2014年に四代目として経営を引き継いだ西島社長は、「礎を築いた先人のおかげで、当社はここまで強くなりました。感謝をもって、受け継がれてきた企業風土を大切にし、技術を身につけた社員が長く活躍できるようによりよい職場環境を目ざして、そのために会社は何ができるのかを常に考えています」と、現在を語る。社員は10代から80代まで退職時期は自らが決める社員数は135人(2021年3月1日現在)で、平均年齢は44・5歳。毎年新卒者を採用しており、人員構成のバランスはとれているという。2021年4月には5人の新入社員を迎えた。社員の年齢層は、18歳から82歳までと幅広い。社員の家族が入社することも珍しくはなく、三世代が現役で勤めている社員もいるそうだ。60歳以上の社員数は現在24人で、年代別には60代が11人、70代が12人、80代が1人。これまでの最高年齢社員は84歳で、取材の数カ月前に引退したという。定年制がないため、自らが退職時期を決める「引退制」を敷いている。引退するまで正社員であり、役割を持ってもらうことにより、社員はモチベーションを維持して仕事に向き合うことができる。この「役割」が重要であると西島社長は強調して、次のように話す。「年齢にかかわらず、自分が会社から必要とされていること、認められていることを実感できるものだからです。しかし、いい加減に決めた役割ではその思いは伝わりませんから、一人ひとりを理解して、それぞれに適した役割を伝えるように努めています」全社員に行う年2回の人事考課は、その役割を果たせているかどうかを、人間性と技術力の両面から自己査定をふまえて評価し、賞与に反映させている。評価の基準は「半年前の自分」であるという。20代で課長、30代で部長、40代以上は管理職を助ける役にベテランには、どのような役割を期待しているのか。定年や継続雇用の制度が設けられていないと聞くと管理職が増えるのではないかと想像するが、同社はその逆で、管理職には若手が就くという独自の人材配置を行っている。「課長は20代、部長は30代。管理職を経験した後は役職を離れ技術に磨きをかけながら、若い管理職を助けてもらいます。ベテランは、最終的に『匠』となりますが、後進への技術・技能の継承も大事な役割となっています」(西島

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