エルダー2021年5月号
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2021.524はじめに高齢化は日本のみならず、世界で急速に進んでいます。特に、先進国では、60歳以上の人口が20%を超えている国が多く存在します。今後数十年で高齢化はさらに加速する見通しで、人々はより高年齢まで長く働くことが求められています。日本では、法令により企業が定年の定めを60歳未満とすることができず、加えて、70歳までの就業機会確保が努力義務化されており、人々もまた、可能なかぎり高年齢まで働く傾向にあります。一方、世界をみてみると、多くの国では定年制(労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度)を導入していません。それでは、世界の人々は、何歳ごろまで働いているのでしょうか。本稿では、世界における高齢者雇用・退職年齢について触れていきたいと思います。世界の定年年齢図表1の通り、ほとんどの国では定年の定めがありません。多くの国では、1980年から90年代に定年制を廃止しています。現在、定年を定めている国の多くは、アジアの国々です。また、定年を定めている国のうち、シンガポール、スウェーデン、アルゼンチンでは、定年年齢の引き上げを行っていますが、世界的にみて、定年年齢に関する動きはあまり多く見受けられません。定年制廃止の動きは、1967年にアメリカで制定された「年齢による雇用差別禁止法(the ADEA)」を機に広まりました。欧州やカナダでは、同様の法律がアメリカより遅れて制定されることになりますが、遅れた要因は、これらの国では、元々雇用保障に関する規制が厳しかったこと、雇用面における年齢差別がアメリカほど大きな問題となっていなかったことなどがあるようです。一方、アジアの国々では、定年制廃止に対する動きがみられませんでした。日本など一部の国では、定年年齢を引き上げる法律が制定されましたが、比較的柔軟性のあるアプローチが適用されています。また、欧米諸国では退職後が「余暇」という位置づけになっているのとは対照的に、アジア諸国では、定年退職後の雇用を文化的に受け入れる傾向があることもその要因と考えられます。はじめに※ 本記事は2019年6月に公表した「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター」掲載記事に一部加筆したものです図表1 世界各国の定年年齢国なしアメリカ、イギリス、イタリア※、インド、インドネシア、ウクライナ、ウズベキスタン※、ウルグアイ、エジプト、オーストラリア、オーストリア、カタール、カナダ、ギリシャ※、クロアチア※、コロンビア、サウジアラビア、スイス、スペイン※、チェコ、チリ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、ブラジル、ベルギー、ポーランド、メキシコ、ロシア70歳アルゼンチン、フランス、ポルトガル61~69歳オランダ(66歳)、イスラエル(67歳)、シンガポール(62歳)、スウェーデン(67歳)、フィリピン(65歳)60歳韓国、タイ、中国(男性)、日本、ベトナム(男性)、マレーシア55歳ベトナム(女性)、中国(女性)出典: 「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」※ 年金支給開始年齢を退職年齢とする契約は可能ウイリス・タワーズワトソン/リタイアメント部門 アジア統括リーダー Jeff Howattリタイアメント部門 リードアソシエイト 宮下 和子高齢者雇用・退職年齢に関する海外の動きコラム

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