エルダー2021年5月号
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2021.5262. 高齢者に対する労働者雇用を企業に推奨すること3. 生涯のエンプロイヤビリティ(雇用され続ける能力)を支援することまず1点目については、過去10〜20年で改善してきています。これは主に、年金制度の改定(早期退職をうながすような給付設計の廃止、年金支給開始年齢の引上げ)によるものです。しかし、より柔軟な定年退職にかかわる環境整備が必要とされています。例えば、働きながらの年金受給を可能にする制度や、高齢者に優しい職場環境の整備などが考えられます。そのためには、社会的な視点と、会社の財政的な視点の、両方のバランスを見つけることが必要です。2点目については、まだあまり制度が整備されていません。定年、雇用、給与を含め、年齢差別を禁止する法律が必要です(年齢ではなく能力を反映)。3点目も同様に、まだ制度が整っていません。求職者のトレーニングや転職支援のみならず、在職者に対してのキャリアコンサルテーションや自己啓発支援など多岐にわたるプログラムが必要とされています。各国の状況人口や政治的背景の影響により、国によってまったく状況が異なります。図表4は、2017年におけるいくつかの国の定年、公的年金支給開始年齢、労働力率(生産年齢人口に対する労働力人口)の一覧です。また、ここであげた国の背景および詳細は、図表5の通りです。世界は急速に人口の高齢化が進んでおり、これに対処するために、人々はより高年齢まで長く働き続けることが求められています。法令が改定され、さまざまな制度が導入されていますが、経済や社会の仕組みを維持するために、この動きはさらに加速する必要があります。そのためには、大胆な法令の制定や改定が求められます。企業もまた、長期的なビジネスの成功のためにも、この動きに対処することが避けられないでしょう。図表4 諸外国の定年、公的年金支給開始年齢、労働力率(2017年)国定年年金支給開始年齢労働力率(2017年)55~64歳労働力率(2017年)65歳アメリカ原則禁止67歳64.5%19.3%イギリス原則禁止65歳66.4%10.2%フランス70歳67歳54.9%3.1%ベルギーなし65歳51.3%2.5%オランダ年金支給開始年齢66歳4カ月(2019年)69.5%7.7%シンガポール62歳(再雇用67歳)65歳68.9%27.8%韓国60歳60歳69.2%31.5%ベトナム男性60歳、女性55歳男性60歳、女性55歳12.3%4.0%出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」図表5 諸外国における高齢者雇用・退職年齢の背景国特 徴アメリカ● 2016年に、年金支給開始年齢を、現在の67歳から69歳に引き上げる提案が出されたが、あまり支持を得なかった● 80%の企業が65歳を超えての就労を支持している一方で、フレックスタイムを適用している企業は39%、さらに、フルタイムからパートタイムに変更する選択肢を提供している企業は31%にとどまっている(2017 US Senate Report on aging workforce)イギリス● 公的年金の支給開始年齢は、現在の65歳から2020年10月までに66歳、2028年までに67歳、さらに2037年から2039年までの間に68歳まで引き上げられる予定● しかし、高齢の労働者のための制度設立を義務付けたり、彼らの雇用を支援するような法律は出されていないフランス● 政府は高齢者雇用を維持するための法改正を行い、早期退職制度を段階的に廃止したため、高齢者の就業率は徐々に改善している● 多くの人が、早く退職して、退職後の生活をより長く楽しみたいと考えているベルギー● 高齢の従業員を支援するための雇用計画を作成することが義務付けられている。その雇用計画では、フレックス制度や能力開発、福利厚生制度など、さまざまな分野が含まれているオランダ● 企業が提供する退職金制度は、68歳の退職年齢を想定しているが、前倒しで減額された給付を受け取ることも可能● 2021年以降、年金支給開始年齢は平均寿命と連動して定められる。現在の予測では、2067年に71歳まで引き上げられることが見込まれるシンガポール● 定年は1999年に60歳から62歳に引き上げられた● 日本と同様、再雇用制度があり、2012年に65歳で導入され、2017年に67歳に引き上げられた● 企業は従業員の年齢を基に給与減額をすることはできないが、再雇用の契約を交わす際、給与減額を提示することは可能韓国● 定年年齢は2016年に55歳から60歳に引き上げられた● 年金支給開始年齢は、2033年までに現在の60歳から65歳に段階的に引き上げられる予定● 賃金ピーク制(Wage-peak system)の導入:定年延長による企業の負担を減らすため、60歳までの雇用保障の引き換えに、一定年齢を超えた場合に給与を減額する制度。約7割の企業が導入しているベトナム● 労働人口はきわめて若く、高齢者の雇用に関する明確な関心や慣習は根づいていない● ただし、年金給付開始年齢は、今後段階的に引き上げる予定

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