エルダー2021年5月号
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の安定などを考慮し、適切なものとなるよう努めること、といった方針も示されています。したがって、再雇用時の条件の提示に関しては、合理的な裁量の範囲であれば、可能といえますが、その範囲については、指針において示された考慮事項のほか、後述の同一労働同一賃金の要素も加味して検討する必要があります。同一労働同一賃金との関係について2再雇用時の条件提示の問題以外にも、定年後の継続雇用を実施する場合、再雇用した高齢者は有期雇用労働者となることが一般的です。そのため、正社員との間で同一労働同一賃金の問題が生じます。定年後の再雇用に関して同一労働同一賃金が争われた事件として、長澤運輸事件(最高裁二小 平30・6・1判決)があります。この事件において、判決では、旧労働契約法第20条が考慮することを認めている「その他の事情」として、〝定年後の再雇用であること〞 について、再雇用後の賃金減額に関する合理性を肯定する方向で考慮していました。なお、この事件は、旧労働契約法第20条が適用された事件であるところ、現在においては、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違に関しては、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パート有期法」)第8条および第9条が適用されることになります(中小企業でも、2021(令和3)年4月1日から適用されます)。よって、この事件を参照する場合は、以下の点に留意しておく必要があります。まず、「同一労働」と評価されるか否かが非常に重要です。この事件では、実は、同一労働か否かの判断にあたって①業務の内容、②当該業務にともなう責任の程度、③配置の変更の範囲については、無期雇用労働者と有期雇用労働者の間に「相違はない」と判断されています。ところが、現行法でこの事件と同様に「相違はない」と判断された場合、労働条件に差異を設けること自体を不利益取扱いとして禁止する「均等待遇」を定めた同法第9条が適用される可能性があります。そうなった場合には、同法第9条が「その他の事情」を考慮要素として掲げていないことから、長澤運輸事件のように〝定年後の再雇用であること〞が賃金減額の合理性を肯定する事情として考慮される余地がなくなる可能性があります。したがって、定年後の再雇用において賃金の減額を一定程度行うにあたっては、少なくとも職務の内容(業務の内容、責任の程度)および職務の内容または配置の変更の範囲(変更の範囲)のいずれかについて、再雇用時点において整理しておくことがきわめて重要といえます。定年後の再雇用において従前の役割をそのまま維持すると、正社員との間での「均等待遇」が必要となり、少しの賃金の減額自体も許容されないことになってしまいそうです。具体的な業務の内容が変更することができない場合であっても、少なくとも、責任の程度や配置変更の範囲などについては、定年後再雇用者について役職を見直すことや異動に関する規定を適用しない旨を再雇用時の労働条件として雇用契約書に明示するといった対応はしておくべきでしょう。さらに、賞与や退職金の支給に関しても、メトロコマース事件および大阪医科薬科大学事件(いずれも最高裁令和2年10月13日判決)において、有期雇用労働者に関して、これらの不支給が不合理といえるか否か判断が下されています。定年後の再雇用において、退職金は支給済みであり追加で支給することは多くないと思われますので、主として問題となるのは賞与の支給であると考えられます。これらの事件においても、職務の内容やその変更の範囲などが判断要素となった点は共通していますが、賞与や退職金に関しては、その支給基準と賃金体系の相違(正社員は職能給制度であるが、有期雇用が時給制度であること)なども強調されています。また、これらの支給が業績と連動させていなかったことなども考慮しており、仮に、賞与に関して業績連動の要素がある場合には、有期雇用の労働者であっても業績に対する貢献があることは否定しがエルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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