エルダー2021年5月号
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これらの契約内容にとって重要な要素として掲げた内容は、改正された高年法において、創業支援等措置を導入するための実施計画において定めることとされています。また、当該実施計画を契約締結する労働者へ書面にて交付するなど周知することも求められていることからも、これらの内容を契約上でも明確にしておかなければ、業務委託による創業支援等措置の実施と当事者の認識が齟齬してしまう恐れがあります。業務委託と労働者性について2過去の連載においても、業務委託と労働者性について触れたことがあります(2019年7月号)。重複する部分もありますが、継続雇用後の業務委託においても、同様の点に留意しておく必要がありますので、改めて紹介します。労働者性の判断にあたっては、「使用従属性」と呼ばれる観点が重視されています。過去の厚生労働省の解釈などにおいて、使用従属性の判断については、①仕事の諾否の自由の有無、②指揮命令権の有無、③時間や場所の拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対償性の有無(労働時間の対価であるか否か)などがあるか否かという観点が掲げられています。次に、労働者性を補強する要素の有無として、⑥事業者性の有無(用具の負担関係、報酬の額)、⑦専属性の有無、⑧その他(採用選考過程の雇用類似性の有無、福利厚生の適用関係、就業規則の適用の有無)などが考慮されています。実際、裁判例においても、これらの要素をふまえて総合考慮の結果として、直接雇用の労働者との比較なども参照しながら、業務委託と評価できるか、労働者性を帯びているかを判断しています。定年後の業務委託においては、自社以外においても役務を提供することが想定されていることは少ないと思われることから、専属性を否定できる状況になるとはかぎらないでしょう。できれば、専属性の要素を弱めるためには、雇用とは異なることから、副業や兼業を認めたうえで、実際に複数の会社に対する役務提供を行うような実態が確保できるとよいと考えられます。また、機械や器具などの負担に関しても、これまで会社が用意してきたにもかかわらず、突如として自己負担を求めるようにスムーズに移行できるとはかぎらないようにも思われます。こうした点を考慮すれば、判断要素のなかでも、指示などに対する諾否の自由を確保しておくためにも、就業する日時などについて裁量の余地をしっかりと確保しておくこと(上記①)が特に重要と思われます。具体的には、月間の就業回数などを決める際に何日役務提供するかという点について元社員の意思を尊重するといった方法を採用することになるでしょう。さらに、業務遂行上の指揮監督においても具体的かつ詳細なものとしないこと(上記②)も重要となります。たとえ、役務の提供場所が退職前の職場と同様であったとしても、直接指揮命令をして業務にあたらせることはできず、仮に、業務遂行が適切に行われなかった際には、懲戒処分や厳重注意などではなく業務委託契約の解除に向けた催告として実施するといった対応が必要になるでしょう。以上のような形で業務委託としての取扱いを実施できていなかった場合には、たとえ創業支援等措置としての業務委託契約締結といえども、労働者性を肯定され、時間外割増賃金や有休取得の権利があるほか、労働時間管理の対象ともなるため、労働基準法違反を発生させるおそれがあり、留意が必要です。業務委託としての性質の維持がむずかしそうな場合には、業務委託の形式ではなく、労働基準法を遵守することを前提に雇用契約のまま関係を維持するという選択をとることも検討に値するでしょう。その場合には、65歳を超えて有期雇用契約を締結することが考えられるため、定年後再雇用者についての無期転換権の適用除外とする場合には、第二種計画認定の手続きを適切に実施するための検討などの準備が必要になってくると思われます。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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