エルダー2021年5月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー49はそうでない社員よりも高いことが示されています。そのため、若い世代だけでなく「まだまだがんばれる!」と思っている高齢社員にも成長する機会を確保することは、社員のモチベーションだけでなく、企業の生産性の向上にもつながると考えられます。また、成長する意欲の高い高齢社員の存在は、若い世代の社員への刺激にもなるでしょう。歳をとっても働くためには何が必要なのか?65歳を過ぎて働くために必要なことをたずねた「60代の雇用・生活調査」((独)労働政策研究・ 研修機構/2020年)では、「健康・体力」が必要だという回答が82・0%と最も多く、「仕事への意欲」が58・9%、「仕事の専門知識・技能があること」が46・2%、「協調性(年下の管理監督者の下でも働けることなど)」が34・9%、「専門性よりは色々な仕事ができる能力や幅広い経験」が21・4%となっています。年齢とともにさまざまな機能が衰えてくるのは仕方がないことですが、仕事が可能なだけの健康・体力づくりは日々心がける必要があります。また、コロナ禍が高齢社員の労働環境にどのような影響を与えるのかも気になるところです。高齢者のコロナ罹患のリスクの高さを考えると、高齢社員は在宅で仕事をするために、例えばパソコンのスキルを身につける必要があります。自分は高齢だから新しいスキルを身につけられなくても仕方ない、ということでは今後の変化に対応していくことができません。スキルの獲得に関する記憶機能は高齢でも保たれていますが、高齢になってゼロから新しいスキルを獲得するのは時間と労力を要します。そのため、常にスキルを更新し続けることが高齢になって環境の変化に適応するうえで重要であることを、コロナ禍は教えてくれている気がします。連載の最後にこの連載の第1回で「高齢者に新しいことなんて身につけられるはずがない」といった、年齢を理由にした根拠のない思い込みや偏見であるエイジズム(年齢差別)についてお話ししました。職場でのエイジズムとしては、年齢を理由にした仕事の変更や退職の勧告があります。また、どちらかといえばこれまで高齢社員を守ってきた年功序列もエイジズムと解釈されることがあります。人種差別、性差別といった差別撤廃の動きが加速していますが、世界的に社員の高齢化が進むなか、エイジズムも例外ではありません。そのため、年齢に関係なく仕事ができるかどうかが、今後はより重視されるようになるでしょう。また、仕事ができることが重視されるようになると、認知機能の検査によって高齢社員の仕事の適性を測ろうとする試みがでてくるかもしれません。たしかに、認知機能検査は認知症やその予備軍にみられる認知機能低下を判定することができます。しかしながら、仕事のパフォーマンスを決定する能力を測ることはできません。なぜなら、高齢社員の仕事のパフォーマンスを決定するのは、経験によってつちかった知識とスキル、対人ストレスや仕事の変化への適応力だからです。人生100年時代といわれ、だれもが高齢になるまで生きることが考えられるいま、老いによる心理的な機能の変化について適切な知識を持つことは、企業にとっても、社員にとっても非常に重要なことだと思います。この連載が少しでも、老いに対する偏見や思い込みの払拭につながっていたら幸いです。【参考文献】Baltes, B., Rudolph, C. W., & Zacher, H. (Eds.). (2019). Work across the lifespan. Academic Press.Cubrich, M., & Petruzzelli, A. (2020). Advancing our understanding of successful aging at work: A socioemotional selectivity theory perspective. Industrial and Organizational Psychology, 13(3), 369-373.Kooij, D. T. (2020). The impact of the Covid-19 pandemic on older workers: The role of self-regulation and organizations. Work, Aging and Retirement, 6(4), 233-237.

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