エルダー2021年5月号
53/68

■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー51ます。そして、社員全員の実際の支給額も2000円増額します。このことにより、制度上も支給額も2000円底上げされた新水準(②)ができあがります。ベアの特徴として大きいのは、翌年以降に賃上げがある場合でも、底上げされた新水準から上がることになるため、効果が永続する点にあります。昇給が現水準(①)のライン上でA地点からB地点に移動するものであることに対して、ベア後の昇給は新水準(②)のC地点からD地点への移動となります。ベアの目的は、かつては物価の上昇に対応するためのものでした。ところが、1990年代以降のバブル経済の崩壊にともない、物価が上がらない状況が続きました。日本経済団体連合会(経団連)が毎年発表している「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」によると、昇給・ベアをともに実施している会社は2013(平成25)年までは10%未満でした。しかし、安倍前内閣で成長戦略の一環として賃上げが位置づけられ、なかでも給与水準全体の引き上げにつながるベアの実施が大企業を中心に強く要請されるようになりました。要請を反映し、2014年には昇給・ベアをともに実施している会社は50%を超え、その状況がしばらく続くことになります。また政府の要請によらずとも、人手不足を背景とした人材の獲得策としてベアを実施し、給与を引き上げている会社もあります。このように、ベアは本来の物価連動とは異なる次元で実施されているのが近年の特徴ともいえます。昇給とベースアップに関する動向ここからは、直近の動向について触れていきます。先述の経団連の調査によると、2019年の賃上げ率は月例給与全体で2・31%、内訳は昇給1・94%、ベア0・37%でした。また昇給・ベアともに実施している会社は62・0%にのぼります。2014〜2018年も同じような傾向にあります。しかしながら、2020年は全体的に抑制された結果となりました。賃上げ率は月例給与全体で2・00%、内訳は昇給1・83%、ベア0・17%、また昇給・ベアともに実施している会社は39・2%にとどまっています。これは新型コロナウイルス感染症流行拡大による、経済状況を反映した結果といわれています。本稿執筆時点では、2021(令和3)年の賃上げについては、従業員の代表である労働組合と経営側が交渉している春闘の結果が出そろっていないのですが、2020年同様に厳しい状況が想定されています。自動車業界では一部メーカーの組合からのベア要求が見送られ、電機業界では要求金額を昨年より引き下げ、景気低迷が直撃している業界ではベア要求よりも雇用維持を優先しています。人件費負担が将来的にも続くベアは、景気の動向を受けやすい傾向にあるといえるでしょう。☆  ☆今回は「昇給とベースアップ」について解説しました。次回は「健康経営」について取り上げる予定です。CDABベースアップ(ベースアップ後の)定期昇給(ベースアップなしの場合の)定期昇給定期昇給N年度(N+1)年度(N+2)年度新水準(②)現水準(①)出典:筆者作成図表 昇給とベースアップ

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る