エルダー2021年5月号
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エルダー63コロナ禍で変わる職場と働き方デル」を示し、コロナ禍の影響と対処・対策の要素を加えてみました。この理論モデルは、職場のストレス要因によって人体には感情(心理)面、生理面、行動面の三つの反応が起き、それが高じるとメンタルヘルス不調や身体の病気(心身症)に至ると説明しています。雇用や職位といった個人的な要因や職場外のストレス要因がストレスによる反応に影響する一方、上司や同僚、家族などの支援は緩かん衝しょう要因と呼ばれ、その反応を和らげると考えられています。そして、このような流れに沿って職場と労働者の双方が協力してストレス対処や対策に取り組むことが大切です。職場のストレス要因については、一例としてテレワークなどの導入を行う際に充分な準備やサポートを行うことができます。また個人的要因については、雇用の確保や共通の危機意識の醸成のために労使間の対話を行うことができます。仕事以外のストレス要因でもプライバシーに配慮しながら相談対応も可能ですし、周囲からのサポートを職場環境改善活動などの場で再認識することもできるでしょう。産業医などにストレスやその反応に悩まされている人の相談対応を依頼し、さらに不調の疑いがある人は専門医への紹介や経過観察をお願いすることも可能です。コロナ禍から立ち直るレジリエンス「禍」という言葉には「災い転じて福となす」というポジティブな意味合いも含まれます。同様のベクトルでは、危機を経てもしなやかに立ち直ることを意味する「レジリエンス」が職場のメンタルヘルス分野で注目されています。われわれは困難を経て何かを学び、未来に活かすことができる才能を持っています。この点を私は企業などへのコンサルティングや研修の場で図表4のような流れで説明してきました。先述した厚生労働省の調査でも睡眠時間や運動量が増えたり、お酒の量が減ったりしたと回答する人が1割ほどいます。適切に対処することで不安やストレスを解消できている人が半数近くおり、家族と過ごす時間が増えた人が3割、余暇や有意義な活動が増えた人が1割います。コロナ禍によって職場の人間関係、配偶者や家族との関係に悩む人が少なくありませんが、これらは新型コロナの流行前から隠れていた問題が顕在化したに過ぎない場合が多いのです。そうした場合に行うことができるのがオープンなコミュニケーションです。みなさんは思ったこと、感じたことを素直に周りの人に表現できていますか? いいたいことをいえること、そうした相手が身近にいることは心身の健康に有効であろうと思います。これを機会に「本音と建前」を打破するよう、自分の気持ちを表現し合うことは、高齢労働が進んでいく将来にも役立ちます。働く人と職場の双方の問題防止や早期発見にも有効です。心理的な安全が確保される感覚を共有できることは職場の一体感や生産性の向上とともに、自職場の心理的なレジリエンスを強化できます。【参考資料】•「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査の結果概要」厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部精神・障害保健課(令和2年12月25日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15766.html•「職業性ストレスモデル(職場のストレスと健康モデル) 」J. J. Hurrell, M. A. McLaney、アメリカ労働安全衛生研究所、 1988•「【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策」亀田高志著、エクスナレッジ(2020年7月)これまで問題のない “順風満帆の人生”でしたか?辛い経験は、今のあなたにまったく役に立っていないですか?ではもしも、役に立っているとしたら・・どんな経験も学びの機会と考えることができる?新型コロナによる経験も将来の役に立つ!NO!??YES!NO!ほとんどの方は失敗、苦労や苦難を思い浮かべると思います。同じ失敗をしないように気をつけたり、苦労を乗り越える術を覚えます。つまり失敗、苦労や苦難もその後、役に立つ経験となっているのです。結果的に失敗、苦労や苦難から我々は何かを学んでいることに気づきます。※筆者作成図表4 どんな経験も学びの機会と考えることができる

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