エルダー2021年6月号
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特集コロナ禍や自然災害に立ち向かう働く高齢者の底力エルダー9「これ、注文受けた」といって若手にバトンを渡したというのです。この問題解決を図ったシニアと直接話をする機会があったので、このときの話を詳しく聞いてみました。すると、彼はこういいました。「若い人たちが、なんだか大騒ぎしているんだけど、聞けば“大した”クレームじゃない。もっとすごい問題が起こったのかと思ったけど、自分の経験してきたなかでは、目をつぶってでも解決できそうなレベルのものだった。若い人にやり方を教えて、後方支援することも考えたけど、まずは素早く解決することかなと思い、自分が直接クライアントと話した。先方のおっしゃっていることは、単純な話で、特に感情部分をていねいに聞きとり、詫びる点は詫び、こちらができる対応を提示。ゆっくりじっくり話していたら、『ま、お互いさまな部分はありましたね』といわれて、最後は笑ってくださった。若い人たちはこういうとき、事実関係とか論理で話そうとしたみたいだけど、怒っている人は理屈じゃないから、感情面を聞きとることが大事なんだよね」彼はどう対応したかを、その後若手にも伝授し、できるだけ若手が自分たちで解決できるよう支援しているらしいのですが、「俺、トラブルになると燃えるから、いつでも声をかけてね」と伝えてあるそうです。これも長年の経験でつちかった知恵と胆力の賜たま物ものでしょう。〈世代継承と後進指導〉シニアが取り組むべき発達課題(それぞれの年代で発達上課題となるもの)には、「世代継承」があります。まだまだ現役時代が続くとはいえ、若い世代と比べれば、少しずつ引退のゴールテープが間近に見え始めているシニア。自分の知識や経験、知恵、人脈など自分が持っているものを後進に伝えたいという意欲はあるものです。若いときは自分が学んだことを後輩に教えるのはもったいないという気持ちを持ったことがあるシニアでも、現役時代が残り少なくなってくると、とにかく、できるだけ次世代に伝承しておこうという気持ちが強くなるようです。自分が働いた足跡を残したい、大げさにいえば、生きた証を実感したいといった気持ちもあるように思います。長年働いてきたシニアは、まだまだ仕事をアナログ(手作業など)で行っていた時代を経験し、それが徐々に自動化、オンライン化、IT化へと進んできた過程を経験しています。こういう歴史をリアルタイムで経験し、知っているのはシニアの強みで、若手に「この技術の歴史的変遷」とか「いまこういう風になっているもののもともとの姿は」といったことを語れます。いまだけ理解しておけばいいと若手は思うかもしれませんが、そんなことはなくて、「かつてこういう風になっていた仕事(やり方や使われている技術や技能)が、こういう変遷を経ていまはこうなっている」ということを理解していると役立つことはたくさんあります。なにせ、いまは、かなりの仕事がブラックボックス化され、仕組みや理屈が見えなくなっているケースも多いからです。ボタン一つで何かの結果を得られるように知識や技能を伝承する歴史やいまでも通用する知識、技能など、できるだけ多くを伝えていきたい

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